スーパープレイヤー列伝
Player File No.13 2004.11.2 (2005.6.7 データ更新)
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LeBron James レブロン・ジェイムズ
フォワード/ガード
203cm 109kg
1984年12月30日生
2003ドラフト1巡目1位指名
所属チーム:クリーヴランド・キャヴァリアーズ
出身校:セント・ヴィンセント−セント・メアリー高
主なタイトル:2004新人王
2005オールスター
2005オールNBA2ndチーム
…など |
コービ・ブライアント、ヴィンス・カーター、トレイシー・マグレィディ、
シャキール・オニール、アレン・アイヴァーソン、グラント・ヒル*1、
アンファニー・ハーダウェイ*2…。
かのマイケル・ジョーダンがNBAを去った後、
色々な意味を込めて、またある程度の期待を込めて
彼の跡目を継ぐのはこのプレイヤーになるのではないか、
とこれまで言われてきた選手は何人か存在する。
上に挙げたプレイヤーたちは、中には怪我によって
その持ち得るパフォーマンスのすべてを発揮しきっていない数人もいるけれども、
それでも紛うことなきスーパースターたちである、
もしくはスーパースターであったということは断言できる。
だが、彼らの誰もが、
マイケル・ジョーダンがNBAにおいて、
ひいては社会において占めていたポジションにまで到達したと言うことはできない。
NBAのゲームにおける支配力然り、他選手たちが抱くリスペクト然り、
スポーツ界全体における存在感然り、また一般社会での知名度、
そして影響力然り。
ところが、である。
2003年、わずか18歳、
高校を出たばかりでNBAというステージに歩を進めたこの男は、MJ以来初めて、
彼が辿り着いたレヴェルにまで手を届かせることになるプレイヤーかも知れない。
冒頭に記した選手たちが登場した時も
このような修辞句はあちこちで並べられたものだが、
今回ばかりははっきり言って少し次元が違う、
と個人的に強く思っている。
まずは肝心のプレイ面。
2003〜2004シーズン、彼のNBA1年目のスタッツは、
得点が20.9(点/試合)、リバウンドが5.5(本/試合)、
アシストが5.9(本/試合)、スティールが1.65(本/試合)。
すでにリーグで激烈な生存競争を何年も続けている
ヴェテラン・プレイヤーが記録したとしても、
十二分に賛辞を得ることのできる数字である。
月並みな表現だが、
これまでの高卒ルーキーに使われていた物差しではまったくもって計り知れない、
ある意味異形のものに近いオーラと能力をその身にまとっている、
末恐ろしいというフレーズがピッタリくるティーンエイジャー。
彼のナチュラル・ポジションはスモール・フォワードであるべきと私は思うが、
ルーキー・シーズンの大半はポール・サイラス ヘッドコーチの意向で
ジェイムズはポイント・ガードとして起用されていた。
PGとは言うまでもなくコート上の指揮官であり、チームの司令塔。
セット・プレイの基点となるべきポジションだし、
また常に沈着冷静にコート全体を見渡すことができるヴィジョンが要求され、
さらにはチームメイトの信頼感も勝ち得ていなければ
とてもよい仕事をこなすことはできない。
そんなポジションを彼は任され、こなしてきたのである。
彼のサイズも考慮に入れると、その事実だけでも驚嘆に足る。
5.9という彼の昨季のアシスト数はNBA全体で13位。
大半のチームの正PGよりも多くのアシスト・パスを生み出したのである。
大半の正PGよりも多くの得点を挙げながらだ。
その年齢とキャリアを鑑みた上で、
そのコート・ヴィジョンとパシング能力のクオリティたるや凄まじいと言うしかない。
また、そこには彼の精神性の部分も
少なからず好影響を与えていることは確かである。
203cm、109kgという高校生(当時)離れした体格、
そして同じくまったく年齢を感じさせない老けた、いや大人びた顔立ち同様、
メンタル面でも彼は十分にNBAという社会でやっていけるレヴェルに到達していた。
18歳の若者、
それも全米でもっとも注目されている高校バスケット界のスター・プレイヤーであり、
すべてにおいて特別扱い、VIP待遇であったレブロン君、
我々凡人が普通に考える限り、
彼が少しばかりテングになっていても何ら不思議ではないし、
大人の世界に飛び込んで様々な誘惑に多少なりとも溺れてしまったとしても
それは仕方がないことと言えるかも知れない。
実際に1999年のドラフトで指名された高卒ルーキー、
レオン・スミス*3の例は極端としても、
そうした慢心が原因で若い選手が類稀な才能を
自ら潰していってしまうケースは少なくない。
ところがレブロン・ジェイムズはそうではなかった。
しっかりと自分のやるべきことが分かっていて、地に足が着いていた18歳だった。
だからこそポイント・ガードという重責も問題なくこなすことができた、
とつなげることもあながち的外れではないだろう。
本音を言うと25歳ぐらいまではもう少しアグレッシヴに、
多少無理目でも一人で強引にバスケットに切り込んで行くようなシーンが
もっと見られてもいいんだけどな、と観ているこちらが思うぐらいに、
本当に年齢に似つかわしくないアンセルフィッシュなプレイを行う。
前述の通り、年齢離れした完成された肉体や卓越したコート・ヴィジョンのみならず、
ジャンプ力やスピード、クイックネスを始めとするいわゆるアスリート能力、
そして特にインサイドでの体の使い方やボディ・バランスなどなど、
ジェイムズには優れた資質がたくさん備わっており、
現時点ですでにNBAのトップ・プレイヤーを凌いでいるといえる部分も数多い。
そんな彼の持ついくつものスペリオリティの中でも、
私がもっとも特筆すべきと思っているのは、
彼はプロ入りするまで高校生を相手にプレイしていた、という点である。
言うまでもなくどんな世界、分野においても周囲の環境というものはとても大切だし、
その人にとって大きな影響力を持つ。
たとえばNBAというステージに進むルーキーにとって、
それまでどんなステップを経験してきたかということは、とても重要である。
大多数のルーキーたちは高校を卒業した後カレッジに進み、
そこでNCAAを中心とした
ハイ・レヴェルなカレッジ・バスケットボールを経験した後にNBA入りする。
それに比して高卒ルーキーは当たり前のことだが、
カレッジ・レヴェルを飛び越えてのジャンプ・アップとなるので、
いきおいどれだけその個人の秘めるポテンシャルが高くても、
どうしても真価を発揮するまである程度の時間がかかることになる。
コービ・ブライアントやトレイシー・マグレィディ、ケヴィン・ガーネットといった、
今や押しも押されもせぬNBAを代表するスーパースターたちとて例外ではなく、
ルーキー・イヤーから
オールスター・クラスの活躍をした高卒プレイヤーは誰もいなかった。
レブロン・ジェイムズ以前は。
ジェイムズが一番凄いのはそこだと思う。
周りは圧倒的に自分よりも能力の劣る高校生ばかり、
そんな環境でずっとプレイしてきたにもかかわらず、
次元が2つも3つも違うようなNBAというトップ・ステージに上がったその瞬間から、
その次元に順応するという期間を置かずして(置いたとしてもごくごく短い時間)、
高いパフォーマンスを発揮してきた、というところがとにもかくにも凄い。
あるいは昨シーズンの素晴らしい結果とて、
まだまだ慣れ切っていないうちの成績だったとでもいうのだろうか。
今まさに幕を開けようとしている2004〜2005シーズン。
レブロン・ジェイムズにとって2年目のNBAイヤー。
今季はどれだけの上積みを重ねているのか、
どこまでの成長を見せてくれるのか本当に楽しみだ。
具体的にはあとはアウトサイド・シュートのスキルを高め、
特にディフェンス面においての経験を積みさえすれば、
限りなくパーフェクト・プレイヤーに近付くことができると言えるだろう。
この20年間、背番号23といえばマイケル・ジョーダン、
というのがバスケットボール界の常識であったけれども、
23番=レブロン・ジェイムズという
新しい公式が出来上がる日が果たしてやってくるのかどうか、
そんな期待も含めて彼の活躍を見守っていきたいと思う。
*1 グラント・ヒル…オーランド・マジック所属のスモール・フォワード。パス、シュート、リバウンド、
そして身体能力と、すべてにおいて高い能力を持つオールラウンダーとして、
また優等生のイメージを持つクリーンなプレイヤーとして1994年、デトロイト・ピストンズに入団した当初から
これからのリーグを背負っていく存在として期待されていたが、左足首の大怪我により
ここ数シーズンはほとんどの試合を欠場、不本意極まりないシーズンを過ごしている。
*2 アンファニー・ハーダウェイ…NBA入り当初は“マジック・ジョンソン2世”の呼び声も高かった
天才大型ガード・プレイヤー。そのポテンシャルはNBAでもトップクラスと言われているが、
度重なる大きなケガによりここ数年は満足なシーズンを送れていない。
2004年11月現在はニューヨーク・ニックス所属。
*3 レオン・スミス…1999年ドラフト1巡目でダラス・マーヴェリックスに指名された高卒ルーキーだが、
コート外でアルコール、ドラッグ、暴力沙汰、挙句の果てには自殺未遂といったトラブルを起こし続け、
結局その年一度もコートに立つことなくカットされたアダルト・チルドレン。
少しは性根が叩き直されたのか、昨シーズンはわずか1試合ではあるが、
シアトル・スーパーソニックスでプレイしている。
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