海洋空間 NBA
スーパープレイヤー列伝


Player File No.10     2003.8.30 (2005.6.7 データ更新)



ケヴィン・ガーネット Kevin Garnett ケヴィン・ガーネット

フォワード
211cm 100kg
1976年5月19日生
1995ドラフト1巡目5位指名
所属チーム:ミネソタ・ティンバーウルヴズ
出身校:ファラガット・アカデミー高
主なタイトル:2004シーズンMVP
        オールNBA1stチーム3回
        オールNBA2ndチーム2回
        オールスター選出8回
        2003オールスターMVP
        リバウンド王2回
          …など



第9回で紹介したトレイシー・マグレィディとはまた若干異なるタイプの
トップ・オールラウンダーがこのケヴィン・ガーネットである。
愛称はKG

KGは1995年、ミネソタ・ティンバーウルヴズにドラフト5位で指名され、
ファラガット・アカデミー高校から直接NBA入りした。
今でこそコービ・ブライアント(1996年NBA入り)や、
トレイシー・マグレィディ(1997年NBA入り)ら、
スーパースター級の高卒NBAプレイヤーも少なからず存在しているが、
このガーネットはまさにそのハシリ、
才能のある高校生プレイヤーがカレッジをパスしてプロ入りする、
というムーヴメントを創り出し、
多くのフォロワーたちを導いたリーダーと称しても差し支えないだろう。
モーゼス・マローン*1以来、およそ20年ぶりの高卒スタープレイヤーとなったのだ。

彼の持つ最大のアドヴァンテージはその長身
KGのナチュラル・ポジションはスモール・フォワード(SF)であるが、
通常NBAのSFの身長は200cm〜205cm程度。
そんな中で彼の211cmというサイズはまさに脅威であり、
攻守ともについて絶対的優位性を常にもたらしてくれるものなのである。

ここで彼の身長について面白いお話が。
ガーネットの公称身長は先述のように211cm(6フィート11インチ)。
しかし、実はもっと高い
巷では、213cmは優にある、
ひょっとしたら216cmあるいは218cmほどもあるのではないか、といわれている。
そしてそれは、私も含めて誰が見ても一目瞭然の事実なのである。
バスケットボールの世界で、身長をサバ読みすることはそんなに珍しいことではない。
有名なところではアレン・アイヴァーソンもそうだし(公称183cm、実際は180p弱)、
チャールズ・バークリー*2も公称は198cmだったが、
実際は194cmほどしかなかったといわれている。
その身長であれだけリバウンドを取りまくっていたのも本当に凄いけど。
ところが普通はこのように実際の身長よりも大きくサバを読むわけだが、
KGの場合は逆に実際よりも小さく発表しているのである。
これはいかに。

アメリカではサイズ表記に普通、メートル・センチではなく、フィート・インチを使う。
バスケットボール・プレイヤーの身長を語る時に、
長身プレイヤーの基準としてよく引き合いに出されるのが、
7フィート(213cm)という数字。
すなわち、これを超えていれば一般に“7フッター”と呼ばれ、
センター・プレイヤーとしても見劣りしないだけの長身選手として見なされるわけである。
ガーネットもインタヴューなどにおいて頻繁に、
「あなたは本当は7フッターではないのか?」という質問を受けているが、
そのたびに頑なに「No.」と否定するのだという。
真相、詳細、意図は不明である。
ちなみに本人の意思に反して、
いろいろなサイトや雑誌などでは7フッターの一人として括られているKGであった。

話を戻すと、無論彼のメリットはただ単に背が高いということだけではない。
冒頭に記したトップ・オールラウンダーという呼称通り、
すべてにおいて高い能力を有していることはまったく間違いない。
まず目につくのはそのスピードクイックネス
アフリカン・アメリカンとしても一段肌の色が濃く、
スレンダーなその体躯からはまるで黒ヒョウのようなイメージを受けるが、
そんなイメージに違わず、そのムーヴはしなやかでそして素速い。
あのサイズでもってあのスピードで動き回られれば、
マッチアップするプレイヤーとしてはまったくたまったものではないはず。
その速さを活かしたガード並のフット・ステップに加えて、
必要ならばいつでも繰り出すことのできる、サイズを前面に押し出したポストプレイ
従前のバスケットボール・プレイヤーが一段進化を遂げたらこうなるのだろうという、
非常に良い見本だ。

具体的なオフェンス・スキルに目を転じてみると、
彼の最強にしてディフェンス不能のリーサル・ウェポンは、
とてつもなく打点の高いフェイドアウェイ・シュート*3
もともとフェイドアウェイはディフェンス・プレイヤーのブロックを避けるために、
斜め後方に跳びながら放つシュートなわけだが、
それをケヴィン・ガーネットはその長身と跳躍力を大いに活かし、
信じ難いほどの高空地点で行う。
305cmの高さに設置されたゴール・リングよりも遥か上方から、
誇張でなく“撃ち下ろす”ジャンプ・シュート。
あれをブロックできる人間は、恐らく世界中に誰もいない。

ディフェンス力ももちろん一級品である。
昨シーズン(2002−2003)のリバウンドは一試合平均13.4(リーグ2位)、
ブロックは同じく1.57(リーグ17位)、スティールも1.38(リーグ33位)と、
ピンチの時には飛んでいく、まさにスーパーマン級の活躍といえる。

そしてそれ以上に舌を巻くべきは、彼のコートヴィジョン
昨シーズンのアシストは同じく一試合当たり6.0(リーグ13位)。
ガーネットの上にいるのはわずか12人。
NBAには29チーム存在しているから、
実に半分以上のチームのポイント・ガードよりも多く、
アシストパスを供していたということである。
フォワードで、しかもチームのスコアリングおよびリバウンド・リーダーでありながら
この数字を記録するというのは、
スーパーマンを通り越してもはやバケモノと言えるかも知れぬ。

このように、猛者ぞろいのNBAにおいてまさに八面六臂、
スペシャルな活躍をすべての分野において披露してくれているKGだが、
実はそのような状況、彼がそうせざるを得ない状況こそがある意味、
彼にとっての不幸の一つであるともいえるのである。

その状況とは、彼がプロ入り以来所属するティンバーウルヴズのチーム事情のこと。
ウルヴズはオーランド・マジックとともに1989年のシーズンからNBAに加わった、
比較的新しいチームである。
一般に歴史の浅い、エクスパンションでリーグに加わったチームというのは、
当然のことながら駒も揃っていないので弱い。
ウルヴズとて例外ではなく、ガーネットが入団して2年目、
1996−1997シーズンまでプレイオフ出場はなし、
いわばガーネットこそが初めてその手中に入れた真のエースであり、
文字通りのフランチャイズ・ビルダーなのである。
そんな状況の中、ガーネットはスコアリング、リバウンド、アシスト、ブロック、スティール…、
一人ですべてのことをやらねばならなかった
そしてその状況は昨シーズンまで変わることなく継続しており、
KGはまさにチームの大黒柱、換言すれば、
彼なしではティンバーウルヴズというチームは成立しえない、
といっても決して過言ではないのである。

その状況のどこが不幸だというのか。
プロ入り以来のケヴィン・ガーネットのキャリア平均得点は、一試合当たり19.4
数字的に最高を記録した昨シーズンの得点は23.0(リーグ8位)。
もちろんこれは決して低い数字ではないのだが、
昨シーズン得点王のT-Macの記録が32.1
例年の得点王も通常30ポイント以上を記録していることを鑑みると、
チームのエースとしては必ずしも満足できる数字と言い切ることはできない。
そしてこれは彼個人の持つタレントの限界点ではない、
というのが不幸の一種であると、私は思う。
リバウンドも取らなければいけない、ブロックもしなければ、
パスも、スティールも…、そんな状況ではいかに得点感覚があろうとも、
そのスコアリング・パフォーマンスを存分に発揮することは叶わない。
オフェンス・ディフェンス問わず、一人ですべての仕事をしなければいけない、
そのどうしようもない現状こそが、
彼の潜在しているはずの得点能力が表出するのを
スポイルしていることにほかならないのである。

KGの所属するティンバーウルヴズが1997年、
プレイオフ初出場を果たしたことは先述したが、
それ以降昨シーズンまで7年連続で、
チームは1回戦を突破することができずに敗退している。
もちろん一概にエースが得点を取ることが即勝ちにつながるというものではないが、
KGがこれまでと同じだけの能力をゲームで発揮した上で、
今まで奪っていたリバウンドが13から10になり、
アシストが6から4になるのなら、
つまりそれを埋め合わせるだけのプレイヤーが周りを固めていさえすれば、
自然とKGのスコアも得点王争いに加わるほどには上積みされ、
きっとチームの総合力はアップするに違いない。

そういった意味で、来シーズンのウルウズ、そしてKGは要注目。
新たにラトレル・スプリーウェル*4マイケル・オロウォキャンディ*5をそのロスターに加え、
これまでKGの両肩にのしかかっていた重責も少しは軽減されることが
容易に想像できるからだ。
これまで一度もプレイオフ1回戦を勝ち抜くことができなかったチームが、
来季は何とカンファレンス制覇もその視野に入れることが可能になったのである。
ワイルド・ワイルド・ウェスト*6
ウェスタン・カンファレンスは、ますます熾烈な戦いに入ることになりそうだ。






*1 モーゼス・マローン…1974年、高卒でABA(American Basketball Association)入り、
   2年後にNBAに移籍し、高卒プレイヤーとして初の殿堂入りを果たした名センター。
   シーズンMVPに3度、リバウンド王には6度輝いている。その現役生活は21年間と、
   とても息の長かったプレイヤーである。

*2 チャールズ・バークリー…オールスター出場11度、NBA1stチーム5度、1993年シーズンMVP、
   そして1992年バルセロナ五輪代表の初代ドリームチームにも選出されるなど、
   数々の栄光を誇るパワー・フォワード。その歯に衣着せぬ言動や、
   ややもすると攻撃的ともいえるキャラクターでも知られる、いわゆる典型的な“Bad Boy”。
   コメンテイターとして活躍する現在もしばしば問題発言で物議を醸すことも。
   現役時代はマイケル・ジョーダンのよきライヴァルであり、またオフコートでは親友である。
   切望したチャンピオン・リングを結局手にすることなく2000年に引退した、
   悲運のプレイヤーでもある。

*3 フェイドアウェイ・シュート…ディフェンス・プレイヤーのブロックを避けるため、
   真上ではなく後方に跳びながら撃つジャンプシュートのこと。非常に難度が高い。

*4 ラトレル・スプリーウェル…2003-2004シーズンよりミネソタ・ティンバーウルヴズに所属する、
   スラッシャー・タイプのシューティング・ガード。そのキャリアをスタートした
   ゴールデンステイト・ウォリアーズでメキメキ頭角を表し始め、
   一躍スタープレイヤーの仲間入りを果たすが、練習中に当時のヘッド・コーチ、
   P.J.カーリシモに暴行を働いたいわゆる“首絞め事件”を起こしてしまい、
   約1年間NBAから追放されたことはあまりに有名。その後ニューヨック・ニックスで復帰し、
   昨シーズンまで活躍していた。

*5 マイケル・オロウォキャンディ…1998年、全体1位でドラフト指名され、
   ロサンジェルス・クリッパーズに入団したナイジェリア出身のセンター。
   貴重な7フッター(213cm)だが、プレイの方はすべてにおいてまだまだ荒削りで安定性に欠け、
   未だナンバーワン・ピックにふさわしい活躍をリーグで見せるには至っていない。

*6 ワイルド・ワイルド・ウェスト…マイケル・ジョーダン率いたシカゴ・ブルズ王朝の崩壊以後、
   NBAでは“西高東低”、つまりウェスタン・カンファレンスがイースタンを
   実力的に圧倒する状態が続いている。これは、プレイオフの出場権を得るのも簡単ではない
   そんな激戦区の西地区を表した言葉。





戻る

表紙