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スーパープレイヤー列伝
Player File No.6 2003.3.30 (2005.6.7 データ更新)
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Vince Carter ヴィンス・カーター
フォワード/ガード
198cm 102kg
1977年1月26日生
1998ドラフト1巡目5位指名
所属チーム:ニュージャージー・ネッツ
出身校:ノース・キャロライナ大
主なタイトル:1999新人王
オールスター選出6回
2000スラムダンク・チャンピオン
2001オールNBA2ndチーム
2000オールNBA3rdチーム
…など |
“Half-Man,Half-Amazing”(半分人間、半分驚異)、
“Vinsanity”(Vince+insanity アレン・アイヴァーソンが命名した造語)、
“Air Canada”(Air Jordanにちなんで カナダのチームに所属しているから)。
1998年、ドラフト1巡目5位指名を受けてNBA入りした
ヴィンス・カーターがもたらしたその衝撃の大きさは、
彼に付けられた数々の賞賛に満ちたニックネームからも窺い知ることができる。
NBAに限らずスポーツ界において、ニックネームが付けられるということは、
すなわち一流プレイヤーであるという証。
それが一つではなく、こんなにもあるのだから。
彼がリーグで初めに示したインパクトは、
何よりもまず、驚異的なダンク・パフォーマンスだろう。
ワンハンド、ボースハンズ、リヴァース、ウィンドミル、スリーシクスティ*1、、、
実に多彩、これまでに存在したすべてのダンク・レパートリーを
再現できると言っても過言ではないその傑出したダンク・スキルをもって、
プロ入り2年目、2000年に行われたオールスター・スラムダンク・コンテストに出場、
通常とは逆回りのスリーシクスティや、レッグスルー(股抜き)・ダンク、
そしてその超人的跳躍力を存分に発揮した、
肘までリングにぶち込むワンハンド・スラムなどなど満点ダンクを連発、
本当に興奮に満ちたダンク・コンテストを演出して見事に優勝に輝いた。
同じく2000年のシーズンの後半、ロサンジェルスで行われたクリッパーズ戦。
試合は終盤、第4クォーターの残り3分29秒というところで、
そのスーパープレイは生み出された。
ハーフラインを少し越えたところからディー・ブラウン*2が放ったアシスト・パスを、
カーターはゴールの方を向いてジャンプしたまま、
上体だけを空中で捻って右手でキャッチ、
そのままワンハンド・アリウープ*3としてリムに叩き込んだのだ。
ちなみにその時、カーターの目線はリングとほぼ同じ高さにあった。
何という跳躍力、ボディ・バランスか。
もちろん、タイミングの取り方も含めたオフェンス・センスも
凄まじいまでのレヴェルの高さである。
さらに彼のハイライト・シーンは続く。
同じ年、シドニー・オリンピックのUSAチーム代表メンバーにも選ばれたカーターは、
五輪の舞台でも信じられないダンクを繰り出した。
相手はフランス代表、カーターは眼前にそびえる218cmのセンターを
何と飛び越えながらダンクを決めたのである。
名高い「人間越えダンク」だ。
百聞は一見に如かず、興味のある方は是非映像を探してみてくだされ。
仰天必至の衝撃映像だ。
ルーキーの頃はどちらかというと“ダンクだけのプレイヤー”、
という扱いをされることが多かったカーターだが、
2年目のシーズン、彼はそうではないことを証明しもした。
1年目、28.8%だったスリーポイント・シュートの確率を40.3%(リーグ17位)まで一気に引き上げ、
優れたロングレンジ・シューターであることも堂々示したのである。
自身も当時インタヴューなどで、
「俺はダンクだけの男じゃない。バスケットボール・プレイヤーなんだ。」
という旨の発言をたびたびしていたので、このシューティング・スキル向上の影には
おそらく並々ならぬ努力が隠されていたのだろう。
カーターはさらにこの年、
逆転ブザービーターとなるスリーポイントを驚くべきことに2試合連続で決め、
ここぞという時に頼りになるゴー・トゥ・ガイ、
クラッチシューター*4としても非凡なところを見せつけた。
また、彼のポジションはスモール・フォワードとシューティング・ガードを兼ねる、
いわゆるスウィングマン*5であるが、
非常にボール・ハンドリングも上手い。
といっても彼のドリブルは典型的なガード・プレイヤーのそれとはやや趣きが異なる。
一般的にガード選手のドリブルは、低く強く速い。
要するに、とても基本に忠実なドリブルであるといえる。
しかしカーターのドリブルは高い。
高いが、実に独特なリズムを刻むドリブルをカーターは繰り出す。
そしてボールはピッタリと掌に吸い付いたまま。
彼は1on1の時、その独特なリズムのドリブルと体の幅を上手く使って
ディフェンス・プレイヤーを抜く。
余談だがそのペネトレイト*6のプレイスタイルから、
カーターのナチュラル・ポジションはスモール・フォワードだと、
私は捉えている。
1999〜2000シーズン、そして翌2000〜2001シーズンは、
カーターにとって実に多くの面でスキルアップし、高いパフォーマンスを披露し、
NBAでもトップクラスのプレイヤーであるという認識を広く強く印象付けた期間であった。
しかし、現在、残念ながら、彼はそのパフォーマンスを維持することはできていない。
次の2001〜2002シーズンはケガのため、82試合中22試合を欠場、
得点アヴェレージも3点近く下げてしまう。
そして今シーズンも2003年3月29日現在、70試合中33試合を欠場、
平均得点もルーキーシーズンに次ぐ低さという有様だ。
今年もファン投票によってオールスターには選ばれたものの、
「(ファン投票で選ばれたプレイヤーが務める)スターターに値するプレイヤーではない」と、
各方面から気の毒な批判を浴びせられたりと、
2年前まで彼が保持していた威光は今のところ、すっかり忘れ去られている。
実際にゲーム中の彼の動きを目にしても、
判断力、決定力、フットワーク、クイックネスなどなどすべての面において、
2000年のカーターには残念ながらまったく及んでいない。
かつてカーターと同じラプターズに所属していた、
従弟のトレイシー・マグレィディ*7は、
「ポジションがかぶるカーターと同じチームだと出場機会が得られない」
と感じて他チームへと移籍していったが、
今や押しも押されもせぬリーグのスコアリング・リーダー、
その存在感は完全に逆転、カーターを遥かに凌駕してしまった。
観ていて「うぉーっ!」という、怒号とも歓声とも驚嘆ともつかない声を上げさせられる選手は、
NBAといえどもそう多くは存在していない。
ヴィンス・カーターというバスケットボール・プレイヤーは間違いなく、
そんな数少ないグレイト・プレイヤーの一人なのである。
来シーズンこそ、“Vinsanity”の姿を再び目撃できることを信じている。
*1 すべてダンクシュートの種類。ワンハンドは片手で、ボースハンズは両手でするダンク。
リヴァースはリングに対して後ろ向きで行うダンク、ウィンドミルとは風車という意味で、その名の通り、
腕を大きく回してからリングに入れるダンクのこと。スリーシクスティとは360°という角度を表しており、
ジャンプしてから空中で横に体を一回転させてするダンクのことを指す。
*2 ディー・ブラウン…ボストン・セルティクスを中心に活躍したガード・プレイヤーで、
優勝を果たしたダンク・コンテストで見せた“目隠しダンク”で有名。2001年引退。
*3 アリウープ……パスを空中でキャッチして、着地せずにそのまま直接ダンクをするプレイのこと。
*4 クラッチシューター…試合終盤の時間帯、“これを入れれば勝つ”というような
土壇場の決定打を決めることができるプレイヤーのこと。
*5 スウィングマン…2つ以上のポジションをこなせるユーティリティ・プレイヤーのこと。
カーターの例のように、シューティング・ガードとスモール・フォワードを務める選手を指すことが多い。
*6 ペネトレイト…和訳は「貫く」。ゴール下に切り込んでいくプレイのこと。
*7 トレイシー・マグレィディ…現在、オーランド・マジックのエースとして活躍しているシューティング・ガード。
非常に完成度の高いオールラウンド・プレイヤーで、今シーズンの得点王候補最右翼。
コービ・ブライアントやアレン・アイヴァーソンなどと並んで、リーグのベスト・プレイヤーの一人といえる。
2002年のオールスターで見せた“一人アリウープ”はスゴかった。通称はT-Mac。
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