舞台は18世紀のイギリス、という時代設定から、勝手に「薔薇密室」や「聖餐城」、あるいは「死の泉」や「伯林蝋人形館」のような雰囲気の作品を想像していたのだが、まったく空気感は異なり、どちらかというとシンプルで分かりやすいミステリーテイストに仕上がっている。
といいながら、死体解剖や男色などの風味を効かせているところはいかにも“らしい”し、微妙にズレたカットバックを最後に帳尻合わせる構成力はさすがである。
ただ、読後に覚える得も言われぬ作品のスケール感、という意味においては、「冬の旅人」も含め、先に挙げたような傑作群の方に分があるように思われる。
いずれにせよ、皆川博子氏の筆力と懐の深さを改めて感じられる作品にはなっている。
ナイジェルのバックグラウンドが結局最後まで明らかにされなかったことが、少し残念だ。
2011年「このミス」3位に選ばれたことが影響しているのだろうが、この作品によって一気に皆川氏の認知度が高まったように見受けられる。
齢80を超えた今、ようやく時代が追いついてきたのだろうか! |