時代や場所設定こそ各書異なれど、ページを開けばそこは紛れもなく皆川ワールド。
クールな筆致で連綿と綴られる壮大なクロニクル。
決して美化された表現ばかりではなく、むしろ生身の人間につきものの恥部や汚部を粛々と連ねているにもかかわらず、物語全編を通じて壮麗とも表現できうる品格に満ちているのはまさに著者の為せる業の真骨頂だろう。
これは、読む者に“生活する実社会の謝絶”を求める小説である、少なくとも活字に向かっている間は。
我々が肉体で知覚している五感を遮断しなければ、味わい尽くすことはできない。
そうして登場人物同様、到底個人の力では抗しきれない大いなるうねりの中に読者も呑み込まれてゆく。
まさに栄枯盛衰、確実に荒廃と破滅に向かって徐々に歩んでゆく物語の中で、主人公の純愛感情が重要な一本の柱として、存在感を主張している。
また、あまりに詳細で具体的な戦闘描写に心底舌を巻いた。
一体どれほどの考証を行っているのだろうか! まさに皆川博子こそ、不死身の怪老女ではないのか! |