「ハウス世界名作劇場」の枠で過去に放送していた、たとえば「フランダースの犬」や「アルプスの少女ハイジ」、「母をたずねて三千里」、比較的新しいところでいえば「ロミオの青い空」などといったテレビアニメ作品を観るにつけ、抗いようのないほどに強大で、そして時には邪悪で凶暴な運命の捻転に巻き込まれ翻弄されてゆく主人公の境遇の変化に心を痛め、あるいはホッと安堵し、とにかくハラハラして仕方がなかった、という人はきっと多いと思うが、それと同種の共感めいたものを私は読中ずっと感じていた。
この作品はスポット的なイヴェントやトピックスを膨らませてエンターテインメントとして成立させている小説ではなく、1人の女性のティーンエイジャー時代から老いさらばえてその生の幕を閉じるまでを、比類なき壮大さと圧倒的なリアリティで書ききっている。
リアリティといっても、そこは小説であるから、ちょっと現実には起こり難いであろう事象が重ねられていたり、現代の日本に生まれ暮らす私たちにとっては決して身近ではないシチュエーションが舞台であったりはするけれど、それなのにまるで文中のエピソードが実際に我々の周囲で巻き起こり、そこで描写されている出来事が我々の眼前で繰り広げられているかのような、徹底的なリアリティが溢れ貫かれているのである。
文字通り流転する1人の人物の歴史を綴ったクロニクルとしては最高級の大作。
そして読了後に残る、ほんのりとした哀しみ。
名著は脳を刺激し、感情を揺さぶる。
本筋とは関係ないが、20世紀初めの、帝政から共産主義へと移行してゆくいわゆるロシア革命へと至る市井の情勢が、フィクションとはいえこれまで読んだどんな歴史の教科書や参考書よりも分かりやすく理解できた。
掛け値なしの傑作である。 |