海洋空間 NBA
スペシャルコラム




vol.2 2003 NBA JAPAN GAMES 観戦記     2003.11.9


シーズン開幕直前、「レイ・アレン負傷のため来日せず」の報にガックリし、
そこにきてさらに追い討ちをかけるように、
「第1戦後、エルトン・ブランド疲労骨折判明」というニュース。
せっかく一枚35000円もの大枚はたいて観に行こうというのに、
どうも日が迫ってきているのに盛り上がらぬ、
というかどちらかというと気勢をそがれがちだった今回のNBA JAPAN GAMES
それにロサンジェルス・クリッパーズvsシアトル・スーパーソニックスという、
決して強豪とは呼べないチーム同士のカードだったためか、
個人的には考えられぬ事態だがチケットも売れ残っているようで、
第1戦を観戦しに行った知人のNさんは一枚20000円のチケットをペア、
しめて定価40000円のところを某オークションにて25000円で入手したらしいし、
その事実を裏付けるかのように、
さいたまスーパーアリーナにはデデーンと当日券売り場なるものが堂々そびえ立っていたが、
そこにも決して人が群がっているという風な様子はついぞ見られなかった。
でもいくら弱いチームとはいえ、スター・プレイヤーが出ないとはいえ、
NBAのチームがやってきて公式戦を戦う、それを生で観るというだけで
ボクにとっては充分に価値のあることなんだけど。

というわけで「2003 NBA JAPAN GAMES」第2戦に行ってきました。
同行者は妻、ユカリン

試合前のTF編集長&ユカリン
試合前、コートをバックに


さいたまスーパーアリーナには今回でボクは2度目のお目見えだ。
前回は「1999 SUPER DREAM GAME」という、
シドニー五輪代表USAチームが来日し全日本とエキシビション・マッチを戦った、
このアリーナのこけら落としのイヴェントの際に訪れている。
10時の開場に合わせて大阪から早朝の新幹線に乗ってきたため
相当の寝不足でボーっとしていた道中ではあったが、
さすがにアリーナの最寄り駅、さいたま新都心駅に降り立った頃から気はそぞろ、
ついぞ走り出してしまいたいような衝動にも駆られるほど楽しくなってきた。

早々にパンフレットを買い求め、入り口ゲートで簡易の応援グッズ
(ヴィジター・チームのフリースローの時なんかに
ゴールの後方でブンブン振っているあの細長い風船のようなもの)を受け取り、
廊下を歩き進むほどに当然その昂ぶりは大きくなっていき、
通路からふと覗き見えたコートの上でシューティング練習に励んでいる
両チームのプレイヤーが視界に入った瞬間、
ついに我慢しきれずに小学生のように走ってしまったのであった。

ソニックス 試合前のシューティング練習
試合前 スーパーソニックスのシューティング練習


ボクたちの席はRSというグレードで、それはスタンド席のものだったが
試合前は自由にアリーナ席の方にも入ることができ、
できるだけ前に出てカメラを手にしばしシューティングを眺める。
ソニックスのルーキー、ルーク・リドナーという白人PGの動きの良さが印象深かった。
この天然パーマはけっこうやるんじゃないか?

しかしこのさいたまスーパーアリーナは本当に素晴らしくよく出来たアリーナだと改めて思う。
他のスポーツの場合にはどうなるのかよく分からないけれど、
ことバスケットボールを観るという環境においては大げさじゃなく
アメリカのアリーナにも引けをとらないんじゃないだろうか。
唯一残念な部分は、通常ならコートの真上に下がっている、
試合途中のインフォメーションを表示する多面モニターがなく、
それに代わるものが客席後方の壁に対角線上にあるのだが、それが若干見づらいぐらい。

試合開始約1時間前、選手たちが一旦ロッカーに引き揚げたタイミングで飲食物を買いに赴く。
しょーもないロッテリアごときに長時間並び、やっとのことで昼飯を手に入れ、
席に戻ってしばしパクつく。
そうこうしているうちに、再び両チームの選手たちが、今度は場内アナウンスの後に
全員しっかりとウォームアップ・ジャージーに身を包んでコート上に現れ、
直前のウォームアップ、シューティングを行う。
ボクたちの席はスタンドの前から9列目、ソニックス寄りのベンチのある側だ。
間近というわけではないが、選手の肉声も充分聞こえてくるぐらいの臨場感はあった。

やがてテレビ放送も始まったであろう12時過ぎ、
両チームのスターティング・ラインナップが発表され、
シンガーのクリスタル・ケイが登場してアメリカ国家を斉唱、
ついにティップオフだ。
プレイボールではないからね、ユカリンくん。

ティップオフ
ティップオフの瞬間


試合は開始直後からハイスコアゲームの様相
第1戦は立ち上がりが鈍かったと、前出のNさんから聞いていたので、
ようやく体も慣れてきたのだろうか。
フィールドゴール・パーセンテージも、
序盤は70%を超えているんじゃないかと思うほどにシュートが決まりまくる。
逆に言うと、ディフェンスが両チームともにリズムを掴み切れていなかったようにも見えた
ゾーン、マンツーマンのスウィッチのタイミングが噛み合っていなかったり、
ダブルチーム*1に行ったところで空いたプレイヤーにノーマークのショットを決められていたり。

そして第1クォーター残り7分49秒、早くもハイライトの第一幕がやってきた。
シアトルのブレント・バリーがゴール上方にフワリと投げ上げたボールを
ラシャード・ルイスがキャッチし、そのまま豪快にアリウープ*2
そのプレイが試合の最初のスパイスであったのと同時に、ルイス・ショーの始まりでもあった。

第1クォーター終了時のスコアがソニックス35−30クリッパーズ
ハーフ終了時が66−58と序盤の勢いそのままのハイスコア・ゲーム。
前半、個人的に印象に残ったプレイヤーは、やはりまずはラシャード・ルイス

フリースローを放つラシャード・ルイス
この日絶好調 ラシャード・ルイス

まさに撃てば入る状態、“in the zone”に入っていた感が強く、
早々に25点をオーヴァーし、50得点の期待も充分に抱かせる
ソニックスのSGロナルド・マーレイも良い動きを見せていた。
ルーキーだった昨シーズン、ゲイリー・ペイトンらが絡んだ大型トレードで
ミルウォーキー・バックスからやってきたNBA2年目のプレイヤーである彼、
ボクはきちんと観たのは初めてだったけれども、
なかなかどうして、身体能力の高そうな細身の体を巧く使い、
アクロバティックかつ無駄に派手ではないプレイをしていたように思う。
ひょっとすると今シーズンに化けるやも知れぬ。

対するクリッパーズの方の前半の戦いぶりに関しては、
スコア的には接戦ではあるが内容はあまりよくなかったように感じた。
特に精彩を欠いたのが
Q”ことクエンティン・リチャードソンキオン・ドゥーリングの若手2人。
Qお得意のおデコポンポンアクションも、3回ほどしか出なかったんじゃないだろうか。

クエンティン・リチャードソンのジャンプショット
イマイチ調子の上がってこないクエンティン・リチャードソンのジャンプショット


NBAレヴェルのゲームといえども、途中のプレイぶりやリズム感の乱れによって、
チーム戦略が崩れてしまうことは多々ある。
そういった時に大きくものを言ってくるのが、
精神的な柱となるヴェテラン・プレイヤーの存在の有無。
その意味で、経験豊富な頼れるフロア・リーダー、
ブレント・バリーがいたことはシアトルにとってとてもプラスだった。
一方のクリッパーズは、フィジカル・メンタル両面における大黒柱、
エルトン・ブランドがコートに立っていなかったということが大きく影響していたように思う。

第2クォーター終了間際、ハプニングが起こる。
バリーがルーズボール*3を追った際に
勢い余ってコートサイドに座っていた観客に激突してしまったのだ。
始めはよくある光景なのでアリーナ中もまったく心配することなく
すぐにプレイも再開されるだろうと思っていたのだが、
予想に反して何だか大事っぽい。
ぶつかられたお客さんは、コートサイドの関係者席に座っていたお上品なおばさんで、
関係者のご夫人か何かなのであろうか、主催者側のお偉いさんたち(と思われる)も
ぞろぞろと集まってきて皆心配そうに覗き込んでいる。
その人がまだ立ち上がれずに床にへたり込んだままプレイはようやく再開したが、
バリーも心配そうにチラチラと視線を投げかけていた。
結果的には大丈夫だったようで、その人は無事に最後までゲームを観戦、
ハーフタイム後にはお詫びの印か、バリーから何かグッズも受け取っており、
ホッと一安心の一幕であった。

忘れかけていたユカリンはというと、
タイムアウト時やハーフタイムに行われる数々のエンターテインメントに
すっかり喜んでいる様子。
中でもスーパーソニックスのマスコット・キャラクター、スクァッチ
(雪男のような毛むくじゃらの、かわいくない着ぐるみ)が気になるようだった。
スクァッチはかなりの運動能力を有しているようで、
客席に飛び込んで暴れ回ったり、ハーフタイムの時はトランポリン・チームとともに
アクロバティックなダンクを決めていたりしたが、
試合の真っ最中にも客席のいろんなところに現れては、
試合展開とまったく無関係の騒ぎを引き起こしていたのはどうかと思ったぞ。

客席で暴れまくるスクァッチ
客席で大暴れのスクァッチ

でもアメリカで観戦した時も同様の出来事は起きていたから、
どのチーム、マスコットでも似たようなことをしているのかも知れない。
元々バスケットボールにあまり興味のなかったユカリンとはいえ、
ボクと一緒に住むようになってからは必然、
普通の成人女子を遥かに凌ぐNBA知識を身に着けてしまったこともあり、
ゲーム観戦の方もまんざらではないようでよかった。

後半に入り、ややディフェンスのリズムも乗ってきたのか、
多少スコアの方は落ち着いてきたようだが、
依然ソニックスが少し押し気味の展開は変わらない。

コーリー・マゲッティのダンク
クリッパーズで一人元気だったコーリー・マゲッティのダンク

一人気を吐いていたコーリー・マゲッティを除き
総じて元気のないクリッパーズの若手軍団とは対照的に、
試合前の練習でも目立っていたソニックスのルーキー、
ルーク・リドナーの働きが後半は目に付いた。
終わってみれば23分出場10ポイント6アシスト、大した数字である。
ぼっちゃんらしい風貌に似つかわしくない、ルーキーらしいガッツ溢れるプレイ・スタイルは、
かつてロサンジェルス・レイカーズに所属していたマイク・ペンバーシー
現在トロント・ラプターズに在籍しているリック・ブランソンを彷彿とさせる。
プレイの精度、レヴェルは彼らよりも高い。

ルーキーといえば、対するクリッパーズの白人センター
クリス・ケイマンも後半は見せ場を作ってよくアピールできていたと思う。
ちょっと動きを見ただけの段階では、ちょっとスローだし跳べないし、
いつものタイプの大型白人プレイヤーかな、という印象だったのだが、
体の使い方が抜群に巧かった。
213センチ、115キロという高さと幅を有効に生かし、
ゴール下でポンプフェイク*4クラッチ*5をかましてのリヴァース・レイアップ*6などを器用に決めていて、
日本のファンからも驚きと歓喜の声が聞こえていた。
遅いけれども堅実な、ジェフ・フォスターグレッグ・オスタータグのようなタイプになるか、
あるいはアウトサイドからの攻撃力も備われば、
ひょっとしたらクリスチャン・レイトナーぐらいの次元には達するかも知れない。

そして第4クォーターに入ってようやく、
これまでずっとベンチに座っていたクリッパーズの中国人センターワン・ジジが登場。
同じアジア人ということもあって一際大きな拍手が沸き起こる。
が、残念ながら少ない出場時間でよいところも見せられずじまい。

ワン・ジジ
あまり良いところのなかったワン・ジジ



それにしてもラシャード・ルイスの勢いはまったく衰えない。
シューティング・セレクションが恐ろしく良いようで、
入りっこねーよ!ってなシュートをバンバン決めているという風ではなく、
着実に入るシュートを確実に沈めていっている。
ブレント・バリーロナルド・マーレイルーク・リドナー
的確なアシスト・パスを供給しているし。

順調に30点を超え、35点を超え、40点を超え、マジで50点?
と観客の皆が固唾を呑んで見守り始めた(であろう)第4クォーター。
勝負の方は既に20点以上の差をつけてソニックスがリード、大方行方は見えてきていたので、
通常ならば結果を出している主力はベンチでお休み、という時間帯なのだが、
それでもルイスがコートに立ち続けている意味は50ポイントを記録すること以外にはない。
そして試合時間残り2分19秒、きれいにスリーポイントを決めて見事50点をマーク
万雷の拍手に送られてようやくお役御免。
ネイト・マクミラン ヘッドコーチの采配に感謝。

ベンチに下がり祝福を受けるラシャード・ルイス
50点をマークして大歓声の中ベンチに下がるラシャード・ルイス


最終スコアは124−105で、
シアトル・スーパーソニックスロサンジェルス・クリッパーズを下し、
2003 NBA JAPAN GAMESソニックスの2連勝で幕を閉じた。
試合とはまったく関係がない話だが、このさいたまスーパーアリーナ、
確かにものすごく素晴らしい会場なんだけど、この動線は設計ミスではないのか?
試合後、客席から出口にかけてとんでもない長蛇の列。
牛歩戦術の如くにしか歩を進められない。
いくら大きなイヴェントでも2万人クラスの人手で
外に出るのにこれだけ時間がかかるというのは考えものだ。
5万人入る東京ドームでも大阪ドームでももっとスムーズに人は流れるぞ。

今シーズンも各チーム数試合を消化したが、
スーパールーキー、レブロン・ジェイムズが期待に違わぬ凄まじいスタッツを残していたり、
カーメロ・アンソニーはちょっと焦りが見えるものの、彼に続く活躍は充分に見せていたり、
ぽっちゃりPFだったアントワン・ウォーカーモーリス・テイラー
見事にシェイプアップして別人のようなムーヴを見せていたり、
コービ・ブライアントが妙にチームメイトに気を遣い過ぎてターンオーヴァー*7を連発していたり、
ヤオ・ミンが2年目を迎えてさらにスキルを向上させていて今年は凄いぞ思わせていたり、
同じく2年目、昨シーズンの新人王アマレ・スタッダマイアーも、
らしからぬ風格、迫力とともに期待通りの順調な成長を見せつけていたり、
これまた2年目、マイク・ダンリーヴィー Jr.
ルーキーイヤーのひ弱さと育ちの良さを微塵も感じさせない
たくましいプレイぶりを披露していて驚かされたり、
ジェイソン・キッドがよりアグレッシヴに、得点力をアップさせていたり、
ヴィンス・カーターがかつてのままの豪快なダンクを引っさげて見事な復活をしていたりと、
早くも見どころ、トピックスが満載の2003−2004NBA
もしかしたらとんでもないアップセットが起きるかも?






*1 ダブルチーム…ボールを持っているオフェンス・プレイヤーに対して、
   ディフェンスが2人つくことをダブルチームという。

*2 アリウープ…パスを空中でキャッチして、着地せずにそのまま直接ダンクをするプレイのこと。

*3 ルーズボール…どちらのチームのプレイヤーも保持していないコート上のボールのこと。

*4 ポンプフェイク…シュートと見せかけるフェイントの一種で、
   ポンプのように一度体を沈み込ませるプレイのこと。

*5 クラッチ…いくつかの意味を持つ言葉だが、ここでは空中で行うシュート・フェイント動作のこと。

*6 リヴァース・レイアップ…左右どちらかのサイドより、一度ゴールの下を越えて
   反対サイドに行ってから放つレイアップ・シュートのこと。

*7 ターンオーヴァー…シュートミス以外の方法で、ボールの保持権を相手チームに渡してしまうこと。
   たとえば、スティール、ドリブルミス、パスミス、アウト・オブ・バウンズなど。





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