海洋空間 NBA
スーパープレイヤー列伝


Player File No.8     2003.6.4 (2004.11.2 データ更新)



ジェイソン・キッド Jason Kidd ジェイソン・キッド

ガード
193cm 96kg
1973年3月23日生
1994ドラフト1巡目2位指名
所属チーム:ニュージャージー・ネッツ
出身校:カリフォルニア大
主なタイトル:1995新人王
        アシスト王5回
        オールNBA1stチーム5回
        オールスター選出7回
        
…など



それぞれプレイ・スタイルこそ違えど、マジック・ジョンソン*1
そしてジョン・ストックトン*2が偉大なる先人たちから受け継いできた、
スーパー・ポイント・ガードとしての由緒正しき系譜の後継者が、
このジェイソン・キッド。

ポイント・ガードとは、チームの司令塔の役割を果たすポジション。
ゲーム中には、いわばコート上のヘッドコーチのような存在にもあたる
このポジションを務めるに際して一番求められる能力は、冷静かつ正確な判断力
いくら動きが速くても、シュートが上手くても、体が大きくても、
常にコート全体を広く見渡すことができ、
その上で正しい選択肢を瞬時に採ることができなければ、
そのプレイヤーは優れたポイント・ガードにはなれない。
ジェイソン・キッドには、NBAプレイヤーとしては並のスピード、クイックネスと、
決して一流シューターとは呼ぶことができないシューティング・スキルが備わっているに過ぎないが、
ことポイント・ガードに必要不可欠なバスケットボールI.Q.は、本当に卓越したものを持っている。

現在でこそポイント・ガードというポジションの割には大柄な部類に入るジェイソン・キッドだが、
少年時代は周りの同年代の子供たちと比べても、一際小さな体格だったらしい。
そんなジェイソン少年が、プレイグラウンドで自分の存在意義をつかみ、
またプレイヤーとして生き残っていくためには、自らがスコアラーになるという、
誰もが望む道を志すのではなく、別のプレイ・スタイルを模索し、選択する必要があった。

体が小さいため、ゴール下でボールを待っていてもパスは回ってこない。
たとえ運良くボールが転がり込んできたとしても、
長身プレイヤーのブロックの格好の餌食となってしまい、シュートまで至ることはできない。
とりわけ年長者たちと一緒にプレイする時はなおさらのことだった。
だがある時、ジェイソン少年は気付いた。
自分がフィニッシャーとして脚光を浴びることはできないが、
そんなスコアラーたちにパスを供給する役目は果たすことができる、と。
学校の公式戦のように、
しっかりと組織されたチームで行われるわけではないプレイグラウンドにおいては、
普通誰もがシュートを撃ち、ゴールを決めたがるものである。
そこで、シュートを望まず、パスを送ることを好むジェイソン少年に声が掛かる機会が多くなり、
いわゆる引っ張りだこのような存在になったのは当然のことだった。
パッサーとして毎日ゲームに参加していたジェイソン少年、そして周りの少年たちはまた、
彼にアシストの才能が備わっていることを知り、
そして彼自身パスを繰り出すことに喜びを見出していることに気付いたのである。
このようにして、将来の名ポイント・ガードとなるべき原石は磨き上げられていった。

目に見えて表れる結果として、
ジェイソン・キッドが優れたポイント・ガードであることを最も如実に示しているものは、
ここ2シーズンのニュージャージー・ネッツの勝ち星の数。
2001-2002シーズンの前に、ステフォン・マーブリー*3とのトレードで
フェニックス・サンズからネッツへと移籍したキッドだが、
彼が加入する前年、2000-2001シーズンのネッツの成績は26勝56敗
そしてキッドが入った翌シーズンの成績が52勝30敗
実に彼が一人加わっただけ(ほぼ)で、何と26もの勝ち星上積み。
勝率にすると、.314→.634
米四大メジャースポーツ、そして日本国内のプロスポーツに目を転じてみても、
たった1シーズンで弱小チームがここまで変貌を遂げる例はなかなか見当たらない。
結果的に受賞はできなかったが、
このシーズンのキッドの活躍はまさにMVPに値すると言っても過言ではなく、
彼はまさしくチームに勝利をもたらすことができるポイント・ガードだ、
ということをこれ以上ない完璧な形で証明したのである。
その年ネッツは勢い衰えずプレイオフでも好調を維持、
最後は王者ロサンジェルス・レイカーズに完敗するものの、
イースタン・チャンピオンにまで登りつめたことは記憶に新しい。
さらにその翌年、つまり今シーズンも、原稿執筆時点の5月27日現在、
すでにいち早くファイナル進出を決め、
西からの刺客を待ち受けている状態のニュージャージー・ネッツには
2年前までの脆弱なイメージは微塵もなく、
強豪チームと呼ぶにふさわしい風格すら漂っているのである。

ポジションに関わらずどのバスケットボール・プレイヤーにとっても、
チームを勝たせられるということは、プロとして大前提の大きな目標であり、
最高の誉れであることに間違いはない。
だが、中でもその誉れがもっとも大きいのが、ポイント・ガードである。
スコアラーポイント・ゲッターとしての価値、評価の基準は、得点に表れ得る。
ゴール下を守るディフェンダーの価値は同様に、リバウンドの数値に表れる。
ポイント・ガードにとっても、アシスト数という形でその能力の一端は示すことができるが、
それよりも、試合を支配する者ゲーム・コントローラーたる存在である
ポイント・ガードにとって最も重要な結果は、
チームを勝利に導くことができるかどうか”ということにあるのだ。
得点する役割を担う選手にとって大事なことは、得点を取ること。
それとまったく同じく、チームの司令塔を務める選手にとって大事なことは、チームを勝たせること。
その点において、まさにジェイソン・キッドは超人、
非の打ち所のないポイント・ガードなのである。

プロ入りした当初から、かのマジック・ジョンソン*1
たびたび比較対象として引き合いに出されるほど、
そのPGとしての能力、素質は目を瞠るものがあったジェイソン・キッドだが、
先述の“あらゆる状況下において的確な判断力”のほかに、
具体的な技術として優れているところはまず、パスの能力
その中でも特に傑出しているのが、ファストブレイクの時やオールコートで攻めている時の、
動き”の中で生み出されるパスの質と精度だ。
同じ名PGでも、ジョン・ストックトン*2のプレイ・スタイルは
オールド・スクールと呼ばれる古典的なスタイルで、
現代の若いガードたちが好んで使う
レッグスルー*4ビハインド・ザ・バック*5などといった派手なプレイは
必要がない限り決して見せることはないが、恐ろしく基本に忠実かつミスの少ないプレイをする。
そんなオールド・スクールのストックトンが最も得意としていたパスは、
きっちりコントロールされた状態のハーフコート・オフェンス、セットプレイの時に繰り出すパス。
いわば“”の状態から生み出される、確実なゴールにつながるアシスト・パスである。
カール・マローン*6とのピック・アンド・ロール*7に代表されるセットオフェンスはまさに
精密機械の如く正確無比の攻撃として恐れられていた。
キッドは、もちろんそういったオーソドックスなパスも
平均を遥かに超越するレヴェルで身に着けているが、それとは対照的な、
速攻の時、全力疾走の中から生み出されたり、
ゴール下、一瞬のノーマークに恵まれたビッグマンに送り込んだりという、
言うなればトリッキーなキラーパスも得意としているのである。
特に、ここで出すかおい!?という刹那に
ゴールの上方にフワリと放り上げられるアリウープ*8・パスから感じられるセンスと技術は、
完全に常人の想像の範囲を超えてしまっている。

それだけでもキッドは十二分に一流の名に値するポイント・ガードだったわけだが、
それに加えて今シーズンは得点力のアップも目覚しいものがあった。
若い頃は、“JasonにはJ(ジャンプシュートを表す俗語)がないからAsonだ
などと揶揄されていたように、ガード・プレイヤーとしてはシュートが不得手だったキッド。
ところがそんな悪評を撥ね付けてやろうという強固な意志の賜物か、
年々シューティング・スキルは向上、特に今シーズンはその成長具合が大きく、
シーズン平均得点は18.7と、キャリア最高を記録した。
パスは得意だけれど、どちらかというとシュートは苦手、というプレイヤーから、
パスも相変わらず得意、自分でシュートも撃っちゃうよ、
というプレイヤーへと変貌を遂げたキッド、
彼をマークするディフェンダーにとって、格段に守りにくくなったことは自明の理である。

また、彼はポイント・ガードとしては恵まれた体のサイズを持っており、
リバウンドをもぎ取る能力も、ガード・プレイヤーの中では格段に高い。
これまたマジック・ジョンソン*1から継承した代名詞だが、
今、“ミスター・トリプルダブル*9”といえば、それはキッドのことを指す。
自分でボールを奪い、運び、パスをし、そしてフィニッシュを決めることもできる。
ジェイソン・キッドもまた、
トレイシー・マグレィディ*10ケヴィン・ガーネット*11らに決して引けをとらぬ
一流のオールラウンド・プレイヤーだといえる。

間違いなく現役1ポイント・ガードのジェイソン・キッドだが、
一つ気になる欠点は、そのターンオーヴァー*12の多さ
もちろんポジションの性質上、他のプレイヤーよりもボールに触る機会は多いから、
ターンオーヴァーも必定増えてしまうことにはなるが、それにしても多い。
ちなみに2002-2003シーズン、1試合あたりのターンオーヴァーは3.7で、
何とこれはリーグ最悪の数字。
先程、キッドは動きの中から繰り出すパスが多い、と書いたが、
そういったトリッキーなパスは成功した時の驚愕が大きい反面、
いくらキッドがパスの達人とはいえ、
やはりオーソドックスなセットからのパスに比べると成功率は劣る。
そんなことが彼のターンオーヴァーの多さには影響していると思うが、
それ以上に、他のPGと比較して、
キッド自らのミスドリブルから生じるターンオーヴァーが多い、
と私は個人的に感じる。
多くの専門家たち、雑誌のライターやテレビの解説者たちの考えとは異なる意見を
ここで勇気(無謀?)をもって発表してしまうが、
キッドはドリブルが上手くない、と私は思っている。
またまたかつてのマジック・ジョンソン*1もそうだったけれど、
大型ガードにありがちなバウンドの高いキッドのドリブルは、
見ていていつも不安定に映ってしまうのだ。
さらに冒頭に記したように、
キッドには目にも留まらぬクイックネスもなければ、常人離れした跳躍力もない。
ディフェンスを抜く時はその運動能力を活かしてではなく、
チェンジ・オヴ・ペース*13とサイズのミスマッチを巧みに活かして抜く。
だから速くて上手いディフェンダーと相対した時、
スピードで劣るキッドはボールを奪われてしまったり、
あるいは自らのミスドリブルで自滅してしまうケースがままあるのだと思うが、どうだろう。

しかし、何度も言うようだが紛うことなき現役1ポイント・ガード、ジェイソン・キッド。
まずは目前に控えた2003NBAファイナル、そして来年にはアテネ・オリンピックが待っている。
彼の司令塔としての人並み外れた手腕を目にする機会は、まだまだ数多く訪れる。






*1 マジック・ジョンソン…1980年代、“ショータイム・バスケット”をウリにしていたロサンジェルス・レイカーズを
   率いたポイント・ガードにして、50年を超える歴史を持つNBAを代表するスーパー・プレイヤーの一人。
   当時のガードとしては非常に稀な206cmという長身、そして名高い“ノールック・パス”で知られる
   卓越したコート・ヴィジョンを武器に活躍。ボストン・セルティクスのラリー・バードとの長年にわたる
   良きライヴァル関係は有名。1992年、HIVウィルス感染が明らかになり引退、以後プレイヤーとして、
   またヘッド・コーチとして復帰を果たすが、成功には至らず。現在はコメンテイター。

*2 ジョン・ストックトン…惜しまれながら2003年限りでユニフォームを脱いでしまったが、
   80年代後半、90年代を代表する、紛うことなきNBAナンバーワン・ポイント・ガードにして、
   アシスト(15806)とスティール(3265)のNBA歴代通算記録保持者。
   チームメイトだったパワー・フォワード、カール・マローンとの絶妙なコンビプレイは
   伝説の域に達していた言っても過言ではない。所属チームは生涯を通して、ユタ・ジャズ。

*3 ステフォン・マーブリー…2003年現在、フェニックス・サンズ所属のポイント・ガード。
   ニューヨークのプレイグラウンドで培った攻撃的かつスピーディなプレイが持ち味で、
   得点力、アシスト能力ともに優れたオールスター・ガードだが、しばしば自己中心的なプレイが
   批判のヤリ玉に挙げられるプレイヤーでもある。

*4 レッグスルー…ドリブル・テクニックの一つで、足の間を通して行うドリブルのこと。

*5 ビハインド・ザ・バック…同じくドリブル・テクニックの一種で、背中の後ろに手を回して行うドリブルのこと。

*6 カール・マローン…ジョン・ストックトンとともにユタ・ジャズを長年に渡って支えてきたパワー・フォワード。
   必ずボールをバスケットに配達する、という意から、ニックネームは“メイルマン(郵便配達人)”。
   40歳になった今シーズンも得点アヴェレージが20点を超えている鉄人で、現在NBA歴代通算得点記録第2位。
   マイケル・ジョーダンと同時代に生まれていなければ、少なくとも3回は得点王になっていただろう。

*7 ピック・アンド・ロール…オーソドックスなオフェンス・フォーメーションの一つ。
   ボールを持っている味方プレイヤーをフリーにするため、スクリーン(ピック)をかけたプレイヤーが、
   その後体を反転(ロール)、ゴールに向かい、パスを受けてシュートをする、というプレイ。

*8 アリウープ…パスを空中でキャッチして、着地せずにそのまま直接ダンクをするプレイのこと。

*9 トリプルダブル…一試合の中で、得点、リバウンド、アシスト、ブロック、スティールの5部門のうち、
   3部門において二桁の結果を記録すること。

*10 トレイシー・マグレィディ…現在、オーランド・マジックのエースとして活躍しているシューティング・ガード。
   非常に完成度の高いオールラウンド・プレイヤーで、今シーズンのNBA得点王を獲得した若きスーパースター。
   コービ・ブライアントやアレン・アイヴァーソンなどと並んで、リーグのベスト・プレイヤーの一人といえる。
   2002年のオールスターで見せた“一人アリウープ”はスゴかった。通称はT-Mac。

*11 ケヴィン・ガーネット…ミネソタ・ティンバーウルヴズのエースとして活躍しているフォワード。
   1995年、高卒ながらドラフト1巡目5位という高位で指名された。
   211cmとセンター並の身長を持ちながらガードに匹敵するムーヴを見せるスーパー・オールラウンダー。
   現在のNBA最高額年俸プレイヤーとしても知られている。

*12 ターンオーヴァー…シュートミス以外の方法で、ボールの保持権を相手チームに渡してしまうこと。
   たとえば、スティール、ドリブルミス、パスミス、アウト・オブ・バウンズなど。

*13 チェンジ・オヴ・ペース…ドリブル・テクニックの一つで、速さ一辺倒で攻めるのではなく、
   緩急とリズムの変化を効果的に用いること。





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