第2日
2004年7月23日(金) 2004.8.30 公開
熟睡真っ只中の8:15、チャイムを立て続けに鳴らす音に目を覚ます。
何事かと寝ぼけまなこのまま半裸でドアを開けると、外にはOマネージャーだ。
何の用事だったのかも、もはやすっかり忘れた。
そんな些細なことで叩き起こされたのであった。
この日はもう一人の出演者、岩井志麻子さんの盟友である
作家の中村うさぎさんが午前の便で日本より到着することになっており、
彼女のお迎えに件のOマネージャー
(岩井さんのマネージャーなので中村さんとも面識がある)とともに
インチョン空港に行くことになっている。
9:00出発のロケ本隊を見送り、O氏と朝食ビュッフェ。
そのカフェ・レストランの窓からはロッテ・ワールドのドームもよく見える。
天気もすこぶる快晴だ。
10:30ホテルを出て、ガイドのアンさん同行の元、中村さんのお迎えに向かう。
空港に到着してみると、何やらザワザワとした雰囲気、警察官や空港警備員、
イカツイSPと思しき人たちの姿が目に付く。
どうやら安室奈美恵が
我々の待つ中村うさぎさんと同じ便で韓国にやって来るらしく、
ボードやうちわなどのアムロ・グッズを手に手に、
熱狂的なファンたちがかなりの数、到着口に集まっている。
安室奈美恵の到着を待つ韓国のファンたち |
明日の晩にソウルでコンサートをやるらしい。
こういっては失礼だが、日本では絶頂期をやや過ぎた感のあるアーティストたち
(もちろん日本国内でピークのアーティストは言わずもがなだが)の
アジアでの人気は音に聞こえるように凄まじいことが体感できた。
無事に中村さんと出会うことができ、早速車に乗り込んでロケ本隊目指して向かう。
時刻はお昼時だが、中村さんはダイエットされているそうで何も食べないそう。
ご機嫌も大変麗しゅう、初対面だが感じのよい方だという第一印象。
だがガイドのアンさんが移動の車中、まさにガイドたりうる本分をこれでもかと発揮、
つまり途切れることなくヒアリング可能確率75%の日本語を駆使して
マシンガン・トークを繰り広げ、恐らく中村さんは若干疲れており、
ちょっと寝たいんじゃなかろうかと確信していたボクのヒヤヒヤといったら
なかなかのものだった。
母国語ほど流暢に日本語を操ることができない外国人に特有の、
本人はサーヴィス精神のつもりだけど言ってることはメチャメチャ無礼、
といった発言も少なからず見受けられる。
しかし幸運なことに心配を覆し、大人の中村さんはニコヤカに受け流していて一安心。
ソウル市内の繁華街、明洞(ミョンドン)で無事にロケ本隊と合流、
これで一同勢揃い。
午前中ロケ隊はここミョンドンでの撮影を敢行、終えている。
ミョンドンはソウルの中でも特に若者で賑わう中心街で、通りも煌びやかだ。
日本でいうならば渋谷に雰囲気が似ているが、そこはやはり韓国らしく、
とても近代的なビル群と、原色使いの派手で雑多な街並みが混在している感じ。
向こうに見えるのがソウルタワー |
ここでついでだから少しだけソウルの街の印象について記しておくと、
まず先述のように市内・郊外のバイパスがとても機能的に整備されている。
日本の首都高速や阪神高速のように都市の中心部には乗り入れていないが、
それらとは比べものにならないほど道幅は広く車線も多く、
走りやすさという点ではすこぶるつきでソウルの勝ち。
また、当たり前だが街の看板類に書かれている文字はほとんどがハングル文字。
アルファベットや漢字ならまだ少しは想像力の働かせようもあろうとういうものだが、
ハングルではどうしようもなく、何が書いてあるのかまったく見当が付かない。
それと同じように韓国人の名前を聞いても、まず男か女かすらよく分からない。
これもよく言われていることだが、韓国内で漢字というものはあまり通用しない。
日本で紹介される地名や人名にはよく使われているので、
ひょっとしたら韓国内でも漢字は普通に使用されていると思っている人も
中にはいるかも知れないが、実態はそんなことはまったくなく、
特に学校で漢字教育を行われていなかった世代
(今の20代〜40代ぐらいに当たるらしい)はほぼ理解をしないようだ。
最近ではそのような状況を改めようと、
義務教育での漢字クラスが復活しているらしい。
街の印象、といった論点からは少しずれるが、このたびのロケ旅行は、
ボクに関していうとディレクターといった実務的な立場ではなく、
いわば局を代表してのお目付け役といった感じでの参加、
つまりそれほどシヴィアにプレッシャーのかかる役割ではないということもあり、
また出発直前まで仕事が立て込んでいたということも多少あるのだが、
旅の下準備といったものをまったくしないままに渡ってしまった感がある。
もう全部人任せ。
言語も含めて旅先についての基礎知識も仕入れぬまま、
そして入った後にも次にどこに行くのか、何時に移動するのか、
今晩何を食べて明日は何時に起きてどこへ行けばいいのか、
すべてをプロダクションのS、T両氏の言うがまま、金魚のフンとなって
テコテコとついて行くのみという情けない体たらく。
普段の自分の性質からは
まったく考えられないような状態での参加となってしまったわけだが、
この点については非常に反省かつ後悔しきりだ。
さて話を戻すと、一行はソウルのランドマークといえばここ(なのか?)、
南大門(ナンデムン)に移動し、その前で中村うさぎさんと合流シーンの撮影。
南大門(ナンデムン)前の広場で出会いシーンの撮影 |
その後、南大門市場へお買い物シーンの撮影に。
ソウルにはこの南大門市場と、東大門(トンデムン)市場という有名な市場があり、
南大門は食料品、東大門の方は衣料品をメインに扱っている店が多い活気のある市場である。
ローカル、観光客問わずかなりの人手だ。
そして地元民たちは人・車ともにものすごいパワーを撒き散らしている。
飛び交う声はひたすらデカイし、
リアカーを引くおっさんは周囲の人を蹴散らしながら我が道を往くし、
車は障害物ありと見るや即物的にクラクションを絶叫する。
大変賑わっていた南大門(ナンデムン)市場 |
無論呼び込みの老若男女が発する片言の日本語も
止むことなくステレオで聞こえてくる。
中には「アンタ、ホンマは日本人やろ」とツッコミたくなるような、
ジャパネットたかたも顔負けの完成されたセールス・トークを
完璧な日本語で披露する輩もおり、感服。
いろいろ見ながら人と絡みながら食べ歩いている出演者たちとともに、
ボクも道端に置いてあったサナギ(虫のアレ)を一つパクリと食べてみた。
何だか漢方薬の風味がする、薬くさいエビみたいだった。
そしてよくよく聞くと置いてあったのは干しただけの状態のもので、
普通はこれをそのままでは食べず、炒めて食すらしい。
早く言ってよ。
市場で売っているサナギ
見たくなかった方、ごめんなさい |
一同、一旦ホテルへ戻って小休止。
その時間を利用してボクはホテル内をうろつき回り、お土産類をいくつか購入。
その後撮影再開。
まずは中村うさぎさんがホテルに隣接するロッテ・デパート内にある免税店で
お買い物をする場面。
ドデカいロッテ・デパートの正面エントランス |
まああの方といえばお買い物ということで。
Diorのバッグをお見立てになって買う、というシーンで、
そのシーンの撮影さえ済めばバッグはお店に返すことにしていたのだが、
彼女は本当に気に入ったようでポーンとお買い上げ。
といっても実際に手にとって見ていたのなんてほんの数分、
まるでボクがコンビニでプロ野球チップスを買うかのような勢いで
ン十万円を自腹でショッピング。
さすがの女王である。
続いては中村さんがお買い物をしている間に2人は、という設定で、
同じく隣接するテーマパーク、ロッテ・ワールドで
岩井志麻子さんと早坂好恵さんが遊んでいるシーン。
まるでシンデレラ城
ロッテ・ワールドの中にあるシンボリックな建物 |
早坂さんは高所恐怖症、岩井さんもまったくダメではないけどあんまりキツイのは、
ということで一番ショッキングな、そしてテレビ映えのする
“ジャイロドロップ”というフリーフォール的なアトラクションはパスし、
和やかな乗り物に変更したという小さなアクシデントはあったものの、
楽しく平和に撮影は完了、これにてこの日のロケはアップ。
ボクは帰りがてらロッテ・ワールド内をプラプラし、
このテーマパークのキャラクターである
“ロッティーとロリー”グッズを中心に土産物を買い漁る。
部屋に戻ってスーツケースに詰めたらパンパンなった。
ロッテ・ワールドのキャラクター(ただのタヌキ)
ロッティー(右)とロリー(左) |
夕食は何と、岩井志麻子さんの韓国人彼氏、現地夫であるサンヒョプくんも合流し、
彼のコーディネートで“サムギョプサル(塩で食べる豚の焼肉)”に舌鼓。
サンヒョプくんがセッティングしてくれたサムギョプサルの店 |
これはまったく辛くないし大丈夫、とてもおいしい。
皆大いに食い、大いに飲んで酔っ払いが多数。
岩井さんとサンヒョプくん、そして中村さんも交えた
岩井カップルにまつわる真剣な恋愛トークが激しい。
ちなみに岩井さんは韓国語をまったく話せないが、
サンヒョプくんはロッテ・ホテルで働いており日本語が堪能なので問題ない。
Oマネージャーも相変わらずの勢いだ。
そしてTディレクターと技術クルーである韓国人のキムくんが
真露を一杯二杯と汲み交わすうちに意気投合、
素晴らしきコンビネーションを見せていた。
韓国には今なお儒教の精神というものが色濃く根付いており、
目上の者、年齢が上の者を常に敬うという習慣を誰もが自然に身に着けている。
このキムくんは確か26歳ぐらいだったかで、この中では相当若く、
2歳ほどしか違わないとはいえ、Tディレクターにも決して礼を失さず、
必ず酒を注ぐ、受ける時は両手で執り行っていた。
また、韓国では目上の者の前で酒を飲む時は後ろを向き、
口をつけて飲んでいる姿を相手に見せないように飲む、という習慣があるそうだが、
これもきちんと遂行していた。
さらに、小説『GO』を読んだ人なら
そんなシーンがあったことを覚えているかも知れないが、
韓国では部下や子供が上司や親にぞんざいな口を利くと、
相手本人より先に周りで聞いている人たちが
「何だ、お前のその口の利き方は!」と叱り飛ばすことがままある、
と今回のロケでお世話になっているソウル在住の日本人カメラマンのTさんに
実体験を交えながら説明をしていただいた。
そしてもう一つ感心したことがあった。
それは韓国に徴兵制が存在していることの意義。
ご存知の人も多かろうが、韓国には強制的な軍隊入隊、
いわゆる徴兵制が敷かれており、ボクも詳しくは知らなくて恐縮だが
いくつかの例外対象者を除く男子は皆一定期間軍隊で厳しい訓練を受ける。
先に登場したTカメラマンの言葉を借りれば、
そういった若者たちは一様に日本人の若者たちに比べて根性が座っており、
社会に出ても立派に通用する者たちが多い、ということのようだ。
考えてみれば当然のことなのかも知れない。
元から染み付いている儒教的な習慣に加え、
厳しい軍隊生活を経ればタテ社会への順応も早かろう。
かといって国民性の特徴?なのか、自己主張はキッチリする人々なので、
人の言いなりになるということもない。
心の面だけではなく、当然肉体的にも鍛えられる。
そこらを歩いている普通の若者たちを見ても、
平均的に日本人よりも強そうな体をしているではないか。
くどいようだがもう一つ、実体験に基づくエピソードを紹介させていただくと、
今回同行しているプロダクションのSディレクターは元アマチュア・ボクサーで、
高校時代には国体で準優勝に輝いたこともある猛者なのだが、彼は
「戦っていて日本人は血を流すと意気消沈するボクサーが多いのに比べて、
韓国人は血を流すと闘志に火がついてより強くなるボクサーが多かった」
と言っていた。
根底に流れている精神・肉体両面における礎の強度が何だか違うような気がした。
そしてサッカーの国際試合なんかでも、接戦になるほど日本が最後には力尽きて
韓国に負けてしまうことが多いような気がする理由も少し分かったかも。
無論徴兵制にはデメリットも多数あろうが、ここではあしからず。
大いに飲んで食べる一同 |
何だかんだでホテルに戻ったのが翌2時頃だっただろうか、眠い。
そしてTディレクターは完全に酔い潰れてしまった。
前の日
次の日
|