改めて皆川博子氏の才の幅を思い知った。
江戸時代の終わりを舞台にした、ハラハラドキドキの立ち回りにミステリーの要素も含んだ長編活劇、と言ってしまうのはあまりに陳腐に過ぎる。
「死の泉」や「薔薇密室」や「聖餐城」を著した同じ作者がこれを書いたというだけでも驚くが、あるいは皆川氏の感覚とリズムがよほど私の性に合うのか、とにかく冒頭の1文字目から最後に至るまでまったく飽きることなどない。
言うなればハードボイルドと括られる一群とは対極に位置するかのような表現こそが物語としてのリアリティーとまさに肉体を持って生きる登場人物を生み、そして読者の心をガシと掴んだまま放さない。
もちろん他作に比べれば解読しやすい歴史活劇小説とはいっても、そこには皆川氏の真骨頂である幻想的な側面も巧みに織り込まれていて、作中作である戯作「狂月亭奇譚笑姫」が非の打ち所なく完璧にストーリーと融和している。
いやはや、とにかくすごい作品であり、すごい作家だ。 |