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2003年1月10日(金)
 
 
 
  
朝焼けの向こうから姿を現したマサイ・キリンのシルエット | 
 
 
ケニア最後の朝が訪れた。 
今日は夜中に目を覚ましたのは一度だけだったが、 
寝起きの症状的には一番辛いかも。 
いわゆる風邪に限りなく近い症状だ。 
辛いが最後のゲーム・サファリ、もちろん行く。 
 
昨日の夫婦と一緒、5人のドライヴだ。 
初日の初っ端に連れて行ってもらったけど空振りに終わった、 
しばしばライオンが見られるという場所、 
袋小路になったところのライオン・ポイントに行ったら、 
今日はライオンの母仔に出逢うことができた。 
母ライオンと2頭の仔ライオン。 
しかしその種類によらず、動物の子供というのは可愛いものだ。 
子供同士でじゃれあい、転がっている。 
眠そうに地に伏せている母ライオンに飛び掛かかる。 
母の尻尾にもじゃれついて飛びつき、鬱陶しそうに払われてしまう。 
微笑ましい光景に、居合わせた数台のサファリ・カーたちとともにしばし見とれる。 
  
母にじゃれついている元気な2頭の仔ライオン | 
 
 
 
その後は川へ移動。 
ヒッポ・プール Hippo Pool なる呼び名のついた、 
その名の通りカバが群れるスポットがこのマラ川にはいくつかあるそうだが、 
そのうちの1つで、ついにカバの大群を間近で目にすることができた。 
それも車を降りてだ。 
その1つ1つの個体のあまりのでかさ、 
そしてそれが多数集まった時の異様ともいえるその光景、 
一挙手一投足にもう釘付けだ。 
これが地上に上がると 
時速35マイル(約56キロ)で走るというのだから恐れ入る。 
扱いとしても、カバはその一般的なイメージとは違い、 
猛獣のカテゴリーに入れられる危険な動物の一種だ。 
ちなみにカバも夜行性の動物で、日中は川の中に身を沈めて体を休め、 
日没頃になると大挙して上陸し、草を食べまくるんだそう。 
その上陸時の足跡だというものもジェイムズに教えてもらって見た。 
ここでも皆で記念にパチリ。 
  
ヒッポ・プールに大挙戯れていたカバの群れ | 
 
 
 
楽しい時は短いもの、あっという間にロッジに帰る時間だ。 
帰途、求愛のダンスを舞うカンムリヅル Crowned Crane のペアを見た。 
  
求愛のダンスを舞っているカンムリヅルのペア | 
 
 
 
ムパタに戻った時に、ジェイムズにもアドレスを書いてもらう。 
写真を送る、と約束した。 
喜んでくれるかなあ。 
 
10時にホテルを出発しなければいけないので急いで朝食をとり、 
荷造りを済ませてロビーに大集合。 
滞在していた日本人客のほとんどが今日チェック・アウトするらしく、大勢集まっている。 
サムソンも「サビシクナリマス」と言っていた。 
  
サムソンとユカリン | 
 
 
出発の時間がやってきて、 
3台の車に便乗してキーチュワ・テンボの発着場へと向かう。 
車の割り振りはゲーム・サファリの時と同じで、ジェイムズとの最後のドライヴだ。 
こんなに日が高く天気が良いのに、景色は雄大で気持ちが良いのに、 
何とも言いようのない寂しさがポッカリと心を占めている。 
 
発着場に着いてから、飛行機を待つ間少し時間があったので 
ジェイムズとパーソナルな話題も含めて、色々な話をすることができた。 
ジェイムズは25歳で、ナクル出身、 
地元には両親やたくさんの兄弟、姉妹たちが住んでいること、 
20歳のガールフレンドがいて、 
彼女は現在モンバサの大学でマネジメントを学んでいること、 
2月5日から2週間休みで故郷へ帰ることなどが分かった。 
ボクのやっている仕事も簡単に説明しておいた。 
またいつかどこかで会えるといいね、ジェイムズ。 
  
別れ際にジェイムズと | 
 
 
 
11:00、往路で乗ったものと同タイプの48人乗りセスナ機がやってきた。 
今日はムパタに来るゲストはおらず、明日やってくるとのことだ。 
相次いで乗り込み、離陸。 
マサイ・マラの大地よ、さようなら。 
生きているうちに再びこの地を踏むことができたらいいな、と心から思う。 
 
今回のケニア、マサイ・マラ紀行での心残りといえば、 
野生のヒョウに遭えなかったことと、 
肉食動物のハンティング・食事シーンが見られなかったこと、 
ヌーが見られなかったこと、動物の川渡りが見られなかったこと、 
ナイル・オオトカゲやパイソンなどの大型爬虫類を間近で見ることができなかったこと、 
あれ、これだけ楽しかったと言ってる割に結構出てくるな。 
しかし、今度機会があれば 
今回果たせなかったこれらのシーンに出逢いたいことは確かに本音なんだけど、 
あんなところであんな体験の数々をすることができたんだ、 
そんな些末なことはどうでもいいよ、もう充分幸せだ、 
という気持ちが強いこともまた事実である。 
大自然に感謝。 
 
 
  
朝靄の向こうに霞んで見える2頭のゾウ | 
 
 
道中、ユカリンとも何度か話していたことだが、 
今回の旅行は滞在型をセレクトしたわけだが、それはとてもよかったと思う。 
もちろん1〜2泊ずつで色々なところを周っていくタイプの旅も、 
それはそれでより多くの観光地を見物することができるという良さはある。 
しかし、この旅では滞在型の良いところを本当にたくさん体感することができた。 
初めはあまりに広大すぎて何が何だかよく把握できなかったマサイ・マラの大地も、 
滞在時間が長くなればなるほど、 
色々な発見をすることによってその隅に近いところまで見えてくるようになるし、 
またドライヴァーのジェイムズを始めとしたホテルのスタッフたちとのリレーションシップも、 
当然日を追うごとに親密なものへとなってゆく。 
一ヶ所に腰を落ち着けて、荷造りを頻繁にする必要がないという、 
肉体的物理的なメリットもある。 
例えば、ヨーロッパの都市部を周ったりする類の旅行であれば、限られた日程の中、 
より多くの目的地を巡れるようなコースの方が何かと良いのかも知れないが、 
こと今回のようにアフリカ、 
それも主目的が大自然の中で野生動物を見ることであるこの旅のようなケースでは、 
滞在型で本当によかったと思っている。 
 
約1時間の飛行時間の後、 
再び我々はナイロビのウィルソン・エアポートへとやってきた。 
ガイドのイコニさんとも4日ぶりの、陽気な再会である。 
なお、この頃には大分耳と口、そして脳が慣れてきたのか、英語を聞き話す能力も、 
ケニアに来た当初とは比べものにならないほどに上達していた。 
習うより慣れろとはよく言ったものだ。 
 
ここからはヴァンに乗って市内を移動、 
ボクがこの旅行で楽しみにしていた一つでもある、 
カーニヴォア・レストラン Carnivore での昼食だ。 
このレストランでは、 
“ゲーム・ミート Game Meat ”と称する普通では食べられない珍しい動物の肉、 
すなわちキリンやシマウマやガゼルなどの肉を 
バーベキューにして食べさせてくれるとのことなのだ。 
 
 
  
ただならぬ様子で集まってきていたナイロビの群衆 | 
 
 
“Carnivore Restaurant 左折”とレストランの場所を指示する 
巨大な看板に従ってメイン・ストリートを左に折れようとした時、 
突如として何やら興奮状態に陥っているらしい群衆の一団が前方に姿を現した。 
イコニさんもどういうことなのか探ろうと覗き込んでいる。 
ボクはこの時、「写真を撮らなくちゃ」と、 
なぜか使命感にも似た閃きに導かれるままに、ゴソッと脇からカメラを取り出し、 
車内からパチリとそのシャッターを切った。 
その瞬間に「カメラはダメよ!」と驚いた様子のイコニさんに注意され、 
撮影を見ていたのかそうでないのか、 
群衆の中から数人の男たちがフラフラと我々の車に歩み寄ってきた。 
ユカリンと2人でその身体に緊張の力を込める。 
結果的には事なきを得た。 
群衆は相変わらずの興奮状態のような笑顔と雄たけびとともに、 
我々の車を通してくれた。 
何か意味はわからなかったが、 
車内の俺たちを見ながらVサインを作って笑いながら何ごとか叫んでいたので、 
とりあえず真似して応じておく。 
 
ここケニアでは昨年末に総選挙があり、大統領が交代している。 
どうやらその流れで、政府高官か誰か、 
重要人物がここにやってくるということで人が集まっていたらしい。 
ちなみにイコニさんも4日前、やや興奮気味に語っていたが、 
このたびの大統領交代を市民はおおむね好意的に受け取っていて、 
来るべき社会変革には大きな期待が寄せられているそうだ。 
 
 
  
カーニヴォアの入り口の前で | 
 
 
無事にカーニヴォア・レストランに到着、 
ムパタを一緒にチェック・アウトした日本人連中も前後しつつ、 
続々とここを目指してやってきているようだ。 
店内に入り建物を抜け、中庭の脇、小さな池に面したテーブルに案内される。 
レストランの外の、我々には危険としか感じとれない雰囲気とは一転、 
ここは観光客にあふれ、楽しげな空気に満ちている。 
さすがカーニヴォア。 
一通りの説明を終えてイコニさんは別席へ去っていき、 
いよいよケニア最後の食事がスタートした。 
 
まずはでかい回転式の皿に乗っていくつかのソースとサラダの類、 
そしてパンがやってきた。 
そのしばらく後にそれぞれの前に鉄板がセッティングされ、 
そこに肉運び人たちが巨大な肉塊を持って次々に訪れてきては 
「ビーフはいるか?」「チキンはいるか?」、 
「くれ」と言ったらズバッと各自の鉄板の上に肉を削ぎ落としていくという、 
いわゆるシュラスコ・システムだ。 
ちなみにボクの目当てはやっぱりゲーム・ミートだぜ! 
本日用意されている4種のゲーム・ミートであるシマウマ、エランド、 
ダチョウ、ガゼルのミートボール、それからビーフを食する。 
エランドが思った以上に柔らかく、かなりうまい。 
ある程度覚悟していた臭みも、薄く切ってあるせいなのかほとんど感じられない。 
どれもそれなりにうまく、まずいと思ったものはなかったな。 
ユカリンはダチョウが一番おいしいと言っていた。 
中庭ではお決まりなのか、 
民族衣装に身を纏ったアフリカ人たちの楽器演奏やダンス、練り歩きが行われていて、 
雰囲気もよろしい。 
楽しいなあ。 
  
開放的なカーニヴォアの中庭で行われていた民族舞踊 | 
 
 
 
あっという間に予定の2時間あまりが過ぎ、デザートも平らげて店を出る。 
隣にはお土産物屋さんも併設されており、一通り見て回る。 
キャップを買おうと思って被ってみたけど、小さい、というより浅かった。 
俺頭でっかい? 結局何も買わず。 
 
ジョモ・ケニヤッタ空港まで送ってもらい、イコニさんに搭乗手続きもしてもらう。 
席の希望は来る時と同じく、足の伸ばせる席を所望、 
より長い時間を飛ぶドバイ−関空間は無事にそこを取ることができて一安心だ。 
出国審査のゲートでイコニさんとはお別れ、色々とありがとうございました。 
 
出発までは大分時間があったので、隅から隅まで土産物店を回り、 
いくつかのお菓子やお茶、メスライオンの木彫りなどを買って、 
喫茶店で暑い中熱いコーヒーと紅茶をすすって時間を潰す。 
さらばケニアだねえ。 
 
出発ゲートをくぐったところの待合スペースは人であふれかえっており、かなり暑い。 
5日前、この空港に降り立った時にも触れたように、 
イメージ的にもやはりアフリカの空港、といった感じで、 
日本のそれとはまったく趣が異なる。 
かなりの確率でビジネスもしくはファーストに乗り込むのであろう、 
アラブの富豪と思しき伊達男とその連れのエキゾチックな美女も特別扱いはなし、 
このクソ暑いアフリカ的待合所で人にまみれつつ飛行機を待たなければいけない。 
高い金払ってるのにチョッピリかわいそうだったりして。 
 
飛行機が飛び立つ頃からボクの体調は最下点に向かって急降下を続け、 
相当に苦しくなってきたぞ。 
 
 
  
ドバイにて かなり辛い様子 | 
 
 
乗り継ぎ地であるドバイに着く頃にはいよいよ風邪と思われる苦痛は増してきており、 
目も相当痛かったのでコンタクト・レンズを外してメガネにチェンジ。 
どうだい? 
アメックスを使ってラウンジで休もうと思ったけど 
「プラチナム オンリー」と断られ(マジかい)、 
半ば意識朦朧としたまま出発時刻をひたすら待つ。 
ちなみに出発は現時時間で確か翌3時だったと思う。 
日本人5人組のおっちゃんたちはサーティーワンでアイスクリームを買い食いしたりと、 
割と元気だったような。 
 
 
 
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