海洋空間B級生活のためのB級名言



第4回 あなたの仕事はなんですか?…趣味です!   2003.8.28



《今回の名言》

転がり出したボールが止まりそうになる度に、誰かがやってきて蹴ってくれた。
                                    〜『ライカとモノクロの日々』



あなたの好きなことは何ですか?
という質問に大変困ってしまう。
子供の頃は筋金入りの無気力人間に
趣味なんていう高尚なものは皆無だったもんで、
クラスの自己紹介なんかで趣味を言うときは「寝ることです」って言ってました。
うわっ、つまんねー!
この解答に対する評価は大豆三粒に相当するよね。
ていうか俺がこの頃の自分の担任だったら絶対ムカツクよ!
とりあえず名簿の隅に小さくチェックしといて後で親呼ぶね。
「普通ドッヂボールとかゲームとか言いますよね?
 いつも図書館行ってるんだから読書って言えばいいじゃありませんか。」
…シャイだったんだよ。
トゥシャイシャイボーイだよ!
読書なんて発表しちまったらクラスメートから
「かしこぶってる」って思われちゃうしさぁ。
俺はお前達とは違うんだよ!
っていう態度を出すのは気が引けちゃってたんだよ。
子供社会ってそれなりに世知辛いから。
今の厚顔無恥な俺を知ってる人はみんな信用しないと思うけど、
昔はそんなふうに気ィ遣いながら生きてたんだよね。

まぁ当時の趣味といえばやっぱり読書と妄想だった。
今は生業としている文章も苦手だし下手だったけど好きだったんだよ。
自分の文章をけなされるのは嫌だけど、書きたい。
揺れ動く少年の心。
そんな少年にある日転機が訪れる。
中学一年生の時に国語の美人教師が俺の書いた詩を
それはもう褒めてくだすったことがあって、
それ以来文章を書くことがすごく楽しく思えた。
ほら、俺って褒められると伸びる子だからさぁ。
何て言うか図に乗ったっていうの?
それからというもの、俺が書く文章をみんなが褒めてくれるんだよ。
丘サーファーが湘南で恐る恐る波に乗ったらみんなが褒めて図に乗り続けて
気がついたら日南海岸にいたっていう感じ。
え?ハワイじゃないよ。
まだそこまでは無理だよ。
日本からハワイまでサーフボードで行けるのはマイク真木ぐらいだね。
文章が得意っていっても地方のB級ライターだしさぁ。
それに文章を褒められたのは社会人になるまでだからね。
大人社会もやっぱり世知辛いさ。アハハン。

で、趣味の話なんだけど、なんだかんだ言って趣味は増えてくるのね。
映画だったり(B級)、音楽だったり(B級)、ガスガンだったり(うわぁ)、
フィギュアだったり(旧ルパン)、バイクだったり(250cc・廃車)。
いろいろやってます。
そんな節操のない俺が運命的に出会ったのがカメラです。
今まで本当に興味がなかった分野で、
カメラって言われても記念写真かアクションカメラ(男子にはおなじみ)
しか思いつかないぐらい興味がなかった。
そんな俺にカメラが列をなしてやって来る。
最初はいつの時代か分からないプレミアというメーカーの110カメラ(推定1970年代)。
その後はキヤノンP(1959年)、ミノルタハイマチックF(1971年)、
キヤノンFT(1966年)、ニコンF(1959年)、トプコンミニヨン?型(1940年前後)。
※カッコ内は発売年。

気がつけばカメラバカ。
さすがにこいつら俺より年上だからくたびれた感じだけど、
深みと味のある写りはさすが。
電子シャッターのハイマチックに至っては
感度が狂ってるからどことなく浮ついた感じ。
俺そっくり。
そんな俺の方はまだまだ勉強中。
本や雑誌を買い漁ったり、ネットで情報収集してたんだけど、
そんな時に見つけたのがこの本『ライカとモノクロの日々』だったのです!
ライカっていうのは元々知ってはいたんだけど、高いんでしょ?くらいの認識。
まるで興味ナシ。
でもカメラ始めたらどうしたってライカって目や耳に飛び込んでくるのね?
で、決定打がこの本。
フォトグラファーの内田ユキオさんがふんだんなライカ写真と共に贈る素敵な文章集
(これを単にフォトエッセイなんて言わない、俺は)。
失礼な話だけど、俺この方知らなかったからかなぁ、
変な先入観なく読めたし、すごく素直に胸に届いた。
この方の写真って他の写真家の人とは何か違うの。
写真から醸し出される空気が自分の気持ちに直接作用する。
光の使い方やプリントのトーンがすごく素敵で、
見ているとなんだか優しい気持ちになってしまう。
きっと内田さんの眼差しが表れてるんだろうね。
見たことない人はぜひこちらでどうぞ

今回はそんな素敵なフォトグラファーの名言。
『転がり出したボールが止まりそうになる度に、
誰かがやってきて蹴ってくれた。』

キッズ達に一つ謝りたい
…今回は…A級です。
S級といっても差し支えないんだけど、俺が大好きだからなぁ。
B級のカテゴリーに甘んじて入って下さい(内田さんごめんなさい)。

で、今回の名言は内田さんの過去を振り返ったコンテンツ
「星に願いを」からなんだけど、ボールをカメラに対する思いに例えているんだね。
このボールはいろんな人と出会うたびに蹴られていくの。
その度ボールは転がり、やがて坂道にさしかかり勢いよく転がっていくんだけど、
内田さんが社会人になるときにピタッと止まってしまう。
そして再びボールが転がるのは8年後のこと。
会社員になって全くカメラを触らなくなってしまうんだけど、
ある日彼の体から腫瘍が見つかる。
で、検査通院が続くある日、カメラ屋のショーウィンドウを見て泣いちゃうんだよ。
そこから会社を辞めてフリーフォトグラファーになるんだけど、
すごく俺自身が共感出来る!
詳しくはこのB級生活シリーズの第1回第2回を読んでくれたまえ。

人との出逢いっていうのは本当にすごいことじゃない?
自分にとって環境が劇的に変わることもあるんだし、
何よりも精神的に作用することもある。
それがプラスに働くか、マイナスに働くかは出たとこ勝負なんだけど、
それでもサイコロを振り続けるのは新たに訪れる何かが楽しみだからなんだと思う。
サイコロ振らなくても勝手に向こうからやって来ることもあるんだけどね。
どっちにしても何かドキドキするよね。

この本読んでモノクロのすごさに打ちのめされたの。
何て美しいんだ!
やっぱ写真てこうだろう?
光と影のコラボレーション、白と黒のツープラトン!
決めたよ、オラ今日からフィルムはモノクロを使う!
店員さん!トライXを3ダース下さい!!(金がないので3つしか買えませんでした)

で、現像に出しにいったらモノクロフィルムは工場送りになるので
一週間から10日ほど掛かりますがよろしいでしょうか?
…よろしかねぇよ!
てめぇ、初めてのモノクロだぞ!?
黄色いエプロンが似あってるじゃねぇか!
そんな感じで、5軒ほど回って、
ようやく探し当てたモノクロもやってくれる小さな写真屋さん。
俺の年代でクラシックカメラを使ってモノクロ写真やってるのがすごく珍しい、
って写真とカメラ談義に花が咲いて2時間ぐらいはあっという間に過ぎていったなぁ。
すごく素敵な御夫婦でお二人とも写真が大好きなんだそうです。
俺が行き始めて2ヶ月ほどした時、
「実はねぇ、店を畳むことにしたんだよ。僕もいい年だから引退しようと思ってねぇ。」
…嘘だろ?
せっかく見付けて出会った写真屋さんなのに!
もうお終いっすか?
花に嵐の例えっすか?
そしたら御主人がモノクロの現像をしてくれそうな所を何軒か教えてくれたんだけど、
遠いうえに料金も高いという。
そこで御主人は店の奥から何やら取りだしてきた。
現像タンク一式!
薬品は新鮮なほうがいいから自分で買ってね。
そう言って現像タンク二つ(大小)とリール4つ、
フィルムスポンジを紙袋にワッサリ入れてもらい、
さらに「僕はもう使わないから」って言いながらセコニックの露出計!
そして何と、上に記してあるトプコンのミニヨンまで頂いたのです!
「処分しようと思っていたものばかりで悪いんだけど」
なんて言いながら現像の仕方を丁寧に教えてくれて、
もし分からないことがあったらここに電話しなさいって
写真教室の先生まで紹介してもらいましてん!
教室に入る必要はないからね、って。
やばい、泣けてきた。
これだから人との出逢いは素晴らしい。
自分の中に写真という新たな世界が出来て
それがまた少しずつ広がっていくことが楽しみで仕方がない。
俺の写真というボールはまだ転がり始めたばかり。
今度はどんな人が蹴ってくれるんだろう。
そしてコピーライティングのボールが止まりそうになったら、
お願いだから誰か蹴って下さい。
あ、僕を蹴るのは止めて!お願いだから!




ライカとモノクロの日々 『ライカとモノクロの日々』
内田ユキオ著
竢o版社(2002年2月)

著者の内田ユキオ氏は新潟県出身、
1995年よりフリーカメラマンとして活躍。
現在、月刊カメラマンなどで連載も持つ。
他著に「ライカの写真術」など。





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