第1回 物書きになりたいやつぁ俺んとこ来んな! 2003.7.16
《今回の名言》
人と違う道は、それなりにしんどいぞ。 〜「耳をすませば」
俺は就職活動をしたことがない。
現在、大阪の某制作会社でコピーライターとして
周囲に迷惑をかける忙しい毎日を送っているが、
それもフリーライターとしてそこに通い続けている間に
いつのまにかそうなっていたのだ。
しかもコピーライターになろうと思ったことは一度もない。
コピー講座に行ったこともなければ芸大を出ているわけでもない。
世の中のコピーライターになりたくて日々努力をしている方々に
「こんな俺がコピー書いててごめんなさい」と
太宰ばりの謙虚さで謝りたくなることもある。
様々な人達との出逢いが俺をライターへと導いたのだが、
そこからがケモノ道の始まりだった。
喰うか喰われるか、骨肉を貪りあう弱肉強食の世界(←若干誇張)。
じゃあ何でこんな稼業を続けてるんだ?
それはただ文章を書くことが好きなだけだ。
学生時代、俺がなりたかったのは小説家だった。
いくつか短編を書いていた時期があり、その頃は完全に文豪気取りだった。
思い返すとあまりのこっ恥ずかしさ炸裂で、
ライカ犬の替わりにスプートニク号に乗ってどこかに飛んでいきたい気分だ(さらばテラよ…)。
ただそういった自分の短編は自分の人生における最初の決意のようでもあり、
今の自分を示唆しているようで大切に保管している。
だがしかぁし!その夢は今も捨ててはいない。
パーカーの万年筆で特注の原稿用紙にガリガリ書いてやるのだ!
直木賞だ!芥川賞だ!ノーベル文学賞だ!
プチプチプチ・・・あ、ごめんなさい。
脳細胞が少しはじけちゃいました。
子供の頃は校庭でするドッヂボールよりも図書館が好きだった。
子供のくせに子供が嫌いだったというのもあるが、
何よりも図書館で本を読んでいる自分が大好きだった。
賢いと思われたかったのだ(バカさゆえに)。
読んで読んで読みまくった。
小学生に定番の江戸川乱歩、コナン・ドイル、滝沢馬琴の八犬伝、
果ては古典落語全集読破にまで至ってしまった。
盆栽でも始めたら完全に御隠居趣味と言えるだろう。
親はもっとA級の名作を読んでもらいたかったようだが、
専らB級路線のドロッとした話ばかり読んでいた。
ちなみに小学校5年生の時、自分の金で買った初めての文庫本は
大藪春彦先生のハードボイルド小説だ。
エロかったなぁ。
ところで、読書好きがある日自分も本を書きたくなるのは、
ロック好きの少年がギターを始める衝動とよく似てはいまいか?
いや似ている。
だって俺がそう。
さて、冒頭の台詞であるが、
これはスタジオジブリの名作『耳をすませば』からのB級名言である。
主人公・雫は読書好きの中学生。
図書館に通い続け、本を借り倒し、受験なんてどこ吹く風である。
ところがある日、雫の借りた本の図書カード(な、懐かしい…)にある名前を見つける。
といったところからお話は進んでいくのであるが、
俺はこのアニメで何度となく涙してしまう。
アメリカのスパイ衛星なんかで写真撮られたりしてたらまずいよなぁ。
だってアニメで泣いている大人の写真を見ながらゲラゲラ笑ってるんだぜ?
絶対やばいよ。今年28になるのに。
で、雫の好きな同級生がバイオリン職人になるために留学するという。
しかし自分はやりたいことが見つからない。
やがて雫は物語を書き始めるのだが、ここからの下りが泣けるのだ。
ホロホロと泣ける。
俺の初期衝動もこんなだったなぁ。
懐かしい…。
脱線してしまったが、そう、今日の名言である。
『雫、人と違う道は、それなりにしんどいぞ。』
雫の父さんの台詞なんだけど、なんというか、達観してますなぁ。
この父さん、図書館の職員さんなんだけど、俺にとって無茶苦茶気になる存在。
たぶん若かりし頃は本の虫で、物書きになりたかったんだろうねぇ。
ところが物書きではなかなか食えねぇ。
人間欲張りだから恋もしたい。
子供が出来て現実問題しっかり家族を食わさなくちゃならん。
でも本からは離れられない。
分かるよ、親父。
まあ一杯飲めよ。
あんたの娘、本が好きなところなんてあんたにそっくりだよ。(←熱燗トーク)
きっと人とは違う道を歩もうとしてたんだろうね。
家中本だらけだし。
父さんもさることながら、このアニメで気になるといえば「地球屋」の老主人。
雫と偶然出逢い、彼女と孫の恋模様を見守りつつ、雫を励ましてくれる。
俺も仕事に行き詰まったら優しく励ましてもらいたいなぁ。
『よく頑張りました。あなたは素敵です。』って。
つうか俺、こんな爺さんになりてぇ。
60才くらいになったら雑貨屋OPENさせちゃおっかなぁ。本気で。
B級路線の雑貨屋。
…売れなさそうだから却下。
まぁ、結局、物を書く仕事というのは確かに人と違う道なんだと思う。
この業界以外の人と話をするとその思いは顕著であり、
隣の水は果てしなく甘いのだ。
だがしかし、コピーライターとして生きることを選んだのは自分以外何者でもない。
冒頭の台詞を思い出すたびに、この道を極めんとする覚悟を再認識する。
たかがアニメと侮るなかれ!
売文稼業の人間にはぜひ観て欲しい作品である。
もし泣けるとしたら、それはおっさんになってきたからではない。
文章を書き始めたはいいが、
思い通りに上手く書けなかったやり切れない過去とオーバーラップするからだ。
あ、それとコピーライターになって一行で100万稼ぎたいという
甘いピンク色の幻想を抱いている君たちに言っておこう。
『人と違う道は、それなりにしんどいぞ』。
ていうか、商売敵を増やしたくないのだよ。
ほんとにしんどいから・・・。
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『耳をすませば』
製作:徳間書店
日本テレビ放送網
博報堂
スタジオジブリ
原作:柊あおい
脚本:宮崎駿
監督:近藤喜文 |
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