「小さな島でのんびり過ごしたいなあ」と思い立ち、瀬戸内海の百島に行ってきた。
お世話になったのはヒトツルという宿。
閑散期なので稼働していないところも見受けられ、ハード・ソフト両面で改善すべき点があることも確かだが、オーベルジュと称しても差し支えないほど食事がすこぶる美味く、滞在した離れの居心地は快適で使い勝手も良く、スタッフの方々のもてなしはアットホームで肩肘張らず、そして価格はリーズナブルと、過不足ない宿で充分寛げた。
島を出て家に帰る途上、ドーベルマンのブリーディングをされているダインベスター犬舎さんに寄らせていただき、ドベまみれになりつつ犬談義に花を咲かせるという、至福の時を過ごした。
2024年2月23日(金祝)
三連休初日、9時ちょうどに自宅を出発し、山陽道に乗って一路西へ。
やはり車は多くてなかなか巡航速度は上がらず、小休止を一度含み、3時間半ほど掛かって福山の常石港フェリー乗り場に着いた。
混雑を想定し余裕を持って出たので、出航定刻の50分ほど前に到着、こりゃ早過ぎたかな、なんて思っていたら、既に先客の車が3台あり、4番目だった。
危ない危ない。
50年前から営んでいるという商店のおばあちゃんに話を聞いてたこ焼きを頬張っていたら、あっという間に乗船となった。


空水にとって初めての船旅は、車内のケージに入ったまま僅か12分の行程で終わり、百島に無事上陸を果たす。
住所は尾道市。
宿泊するヒトツルは港から車で数分の近距離だが、とにかく島内の道は狭く、幅1900mmのSUVなど邪魔ものでしかない。
島民の方々が乗っているのは例外なく軽自動車、それ以外であれば外から来た観光客と考えて間違いないだろう。

14時前に宿に着いたが、チェックインどうぞと快く迎えていただき、事前にお願いしていた昼食を早々に頂戴する。
メニューはバインミー。
流暢な日本語で接遇してくれるヴェトナム人スタッフ・リーナちゃん渾身の作で、シナモンとジンジャーが効いた紅茶ともども、本当に美味だった。
ランチは私たちが泊まる離れに隣接したガーデンで食したが、このスペースがまた贅沢。
敷地全体がしっかり囲われているので、ドッグランのような使い方もできる。


食後、島内散策に出掛けた。
厚い雲が広がる空模様だが、雨が上がってくれたのでありがたい。
宿を出て港とは反対側に向かい、島に唯一ある診療所の前など通り過ぎつつ、南端の海まで出ると、弘法大師が上陸した地という伝説が残るだんご岩の奇景が眼前に広がり、しばし対岸に浮かぶ島々を見はるかすのであった。






だんご岩を後にし、往路とは違う道を通りながら北上、港から宿に向かう車中より見て気になっていた建物、百島みんなの家までやってきた。
建築家・伊東豊雄氏の設計で、役所の支所や郵便局などの機能があるようだ。
廃校になった中学校の建物を利用しているART BASE 百島に立ち寄ってみたら、開館日ではないものの作業をしていた若いスタッフの方がわざわざ出てきて説明をしてくれた。
そしてこれまた車窓から気になっていた百島東映という映画館の跡がまた強烈な存在感。
今は日章館と名を変え、ギャラリースペースとして使われているとのこと。




ご多分に漏れず百島でも高齢化と過疎化が急速に進んでいるようで、散策の途中でも多くの空き家を目にし、また打ち捨てられ荒廃した山の姿などが心に残った。
一方で、若い人たちが島に入ってアートで町おこしに取り組んでいるという一面もあり、その動きの中でこの百島東映という昭和の亡霊のような遺物が令和に甦りつつある、という事例などは、渾然一体となったモザイク画みたいでとても面白いなあ、と感じる。

結局2時間近く、8kmちょっと歩き、遅めのランチとして食べたバインミーもすっかり消費された。

宿に戻って少し休憩した後は、お待ちかねの夕食。
本館のダイニングスペースで頂く。
空水の同行可も嬉しいところ。
メインはさすが瀬戸内といった感のある、レモン鍋だ。
醤油ベースにレモンピールの出汁なども加えられているという味付けが絶妙という他なく、牛肉と豚肉はしゃぶしゃぶで。
百華と名付けられ、特産として生産されているきのこをふんだんに使った料理やごはん、そして天ぷらも美味い。
肉も魚介も野菜も、ほとんどが地のものだそう。
アムステルダムの日系ホテルでも腕を振るってきたというユニークな経歴を持つ料理長の経験・技術と細やかな心遣いが存分に活かされた内容と言える。
どれも掛け値なしの美味しさだったが、ヴォリュームもものすごく、不本意ながら野菜は完食できなかった…。
デザートに頂いた自家製のヴァニラアイスは、部屋に戻り少し時間を置いてお腹にスペースができてから、堪能した。





2024年2月24日(土)
ベッドに入り、そろそろ入眠しそう…という寝入りばなに突如聞こえてきて意識を現実に引き戻す、「チリン」という金属音。
なんだこのポルターガイスト現象は…? と夜中に右往左往した結果、冷蔵庫の上に置いたコーヒーカップが振動でぶつかり音を立てていることを妻が解明し、どうにか事なきを得た。
良い具合に疲れている空水は何も気にせず夢の中。

朝食は和かな、となんとなく思っていたが、予想に反して洋食だった。
島の柑橘は本当に美味しく、フルーツ好きにはたまらない。


朝の散歩は昨夕と異なる方向、島の北西部へ向かってみた。
ビーチリゾートのようなエリアもあり、夏にはマリンスポーツやBBQを楽しむ人などで賑わうそうだが、この日も常設テントがあるキャンプ場はファミリーの姿が多く見られ、なかなかの人出だった。
天気は晴れて青空、海沿いを歩いているとまさに爽快だ。





10時17分発のフェリーに乗るつもりなので、それに合わせて準備を整え、チェックアウト。
のんびりするために小さな島にやってきたのに、やっぱりどうしても少し慌ただしくなってしまい、自嘲する。
本当は二泊以上が理想だな。
リーナちゃん始めスタッフの方々、お世話になりました。


帰りのフェリーは尾道に向かう便で、歌港で下船。
乗り込む車は多く、積載ぎりぎりだったみたい。
乗船待ちの列、私たちの後ろに診療所の看護師さんと愛犬が並んでおられ、少し遊ばせてもらう。
お医者の先生は黒ラブを飼われているんだとか。
さらば百島。

山陽道に乗り、家に帰る前に岡山県の和気ICで途中下車、目指すのは備前市にあるダインベスター犬舎だ。
ドーベルマンを扱うこちらの犬舎は最近、オーナーからの要望が特になくても生まれてくる仔犬の断尾をしない方針にシフトされたということで、尻尾あり耳あり空水の親としてはご挨拶に伺わないと、とお時間を取っていただいた次第。

ブリーダーのNさんとともにまず元気に迎えてくれたのは、平八郎くん。
乱でも起こしそうな和名だが笑、アメリカンながら南米産の大きな男の子で、まだまだ若く遊びたい盛り、とにかく明るくフレンドリーです。
しきりにワンプロに誘ってくれていたのに、つれない反応の空水だった汗。

続いてさらに大きな男の子のアールくんも加わって歓待してくれた。
こちらはヨーロピアンで、50kgを超えているそう。
胴周りを抱えてがしがし撫でくりまわしていると、とても空水と同種とは思えないスケール感だ。

そして11月に生まれたかわいいパピーちゃん2頭にも会わせていただいた。
平八郎と、遅れて出してくれたチョコのお母さん・サンちゃんの仔たちだ。
まだ外の世界に慣れている途上で、また大きなアールたちに圧倒され、なかなか部屋の出口から離れられなかったが、少し時間が経つと好奇心が勝って闊達に歩き回り、Nさんの背中に乗るなど甘えていた。
男女1頭ずつだったが特に男の子の方はがっしりと大きかった。




素晴らしい環境でのびのび暮らすドーベルマンたちにまみれながら、色々と貴重なお話を伺う楽しい時間であった。
犬たちを愛しその幸せを願うNさんのお人柄に感謝するとともに、心より応援したい。

ありがとうございました! |