第5日
2003年1月8日(水)
強力下痢止め薬がその威力を発揮して、
ユカリンのお腹はすっかり治ったようだが、
ボクの方はというとこの日もほぼ1時間おきに目が覚めてしまう。
かなり苦しい。
咳、喉の痛み、鼻水に加えて、熱まで出てきたかも知れん。
汗もかなりかいていた。
でも動き出したら治ってしまうんだな、これが。
今日は2人ともに楽しみにしていた、
気球に乗ってサヴァンナ上空を飛ぶバルーン・サファリの日。
いつもより1時間早起きして、5:00、バルーン・サファリを主催する
リトル・ガヴァナーズ・キャンプ Little Governor’s Camp からの
迎えの車に乗って出発。
ムパタからの参加者は我々の2人だけ。
真っ暗闇の中を、いつもと違う車で、
いつもと違うドライヴァーの運転で黙々と進んでいく。
寒い。
このドライヴァーも名をジェイムズといい、
大柄、無骨で一見恐ろしげな感じだが、親切でよいおっちゃんであった。
そして暗闇の中でトピだ、ウサギだ、
とやはり驚異的な視力を発揮して動物を見つけていた。
星空がものすごく綺麗だ。
天球儀に載っている星はすべて見えているんじゃないかと思うぐらい。
1時間弱のドライヴを終え、
6時前リトル・ガヴァナーズのバルーン発着場に到着。
モーニング・コーヒーなどを振舞ってもらいながら、
かなり陽気で話し好きなアフリカンとトークに興じつつ飛行準備が整うのを待つ。
実際に目の当たりにしてド肝を抜かれた巨大なバルーン
これでもまだ10メートルほど手前に立っている |
バルーンはこの日は12人乗りと16人乗りの2基が用意されていたが、
とてつもなくでかい。
まだ暗闇の残る中、懸命に膨らまし作業が続けられていたが、
膨らみきった高さは、おおよそ20メートルといったところであろうか。
いや、もっとあったかも知れない。
とにかくその想像を絶するでかさに口は半開きだ。
6:30頃であろうか、奥にあった16人乗りの気球が先立って飛び立ち、
ほどなくして我々も乗り込みを促され、しばしレクチャーを受ける。
12人乗りの気球に10人乗船。
事前に何となく思い描いていたイメージとは違い、
気球の乗員ボックスはいくつかの小さな仕切りに分けられていて、
中を自由に歩き回るという構造にはなっていなかった。
あらかじめ乗り込んだセルの中にずっと居続けるということ。
なるほど、重量バランスのことなどを考えれば当たり前のことなのかも知れない。
そしてパイロットはボックスの中央に陣取り、
そこでバーナーを巧みに操りながら気球を導いていく。
その炎の勢いと轟音たるや、ものすごい。
我々の乗るレインボー号のパイロットはデヴィッドというでっかいカナディアン。
もう1基のパイロットもカナディアンであった。
いよいよテイク・オフ!
揺れもショックもほとんどなく、ぐんぐん遠ざかっていく地面。
この日は昨日までと違って、まさに雲ひとつない快晴、
絶景の日の出もバルーンから見ることができて、それはそれは美しかった。
離陸直後の気球の上から急速に遠ざかる発着場を望む |
バルーンは草原からマラ川を越えて、さらに南の草原へと飛んでいき、
空からはアンテロープやバッファローの群れ、
アカシアの葉を食むゾウやキリンたち、
そして川で泳ぐワニやカバの一団を見ることができた。
アンテロープたちはみな不思議そうにバルーンを見上げていた。
マラ川を泳ぐ1頭のナイル・ワニ |
道中ずっと、パイロットのデヴィッドはまるでアナウンサーのような、
すこぶる快活な口調で色々な解説を披露してくれていたが、
残念ながらその喋るスピードが速くてイマイチ聞き取ることができず、
悲しいかな理解度は半分以下。
笑いどころもよく分からずに残念無念。
ちなみに2基のバルーンの乗客は、我々2人以外は全員白人であった。
およそ1時間の遊覧飛行を終え、無事草原のど真ん中にバルーン着地。
衝撃もほとんどない、ソフト・ランディング。
着地点近くには既にブレックファスト準備部隊が先乗りし、
着々とその準備を進めていた。
そう、このバルーン・サファリには、着地後、
サヴァンナのど真ん中でそのまま皆でテーブルを囲んで朝食をとるという、
“シャンパン・ブレックファスト”なる
ゴージャスなプログラムもセットされているのである。
まずは既に用意されていたシャンパンで三々五々乾杯、記念写真などを撮り、
皆が揃ってすべての準備が整ったら、
世にも贅沢なシャンパン・ブレックファストの始まりだ。
20名あまりのメンバーでテーブルを囲み、
トーストやフルーツ、ソーセージや卵料理など、爽快な朝食をとる。
ケニア・サヴァンナのど真ん中でアメリカ人と一緒に朝ごはん |
周りにいたのはニューヨークからやってきていた一団で、
ニックス(ニューヨークに本拠地をおくNBAチーム)の話、
中でもボクがユーイング(かつてのニックスのスター選手)
のサインを持っているということを言ったら、
オォーという反応があってしてやったりであった。
しかし本当に至れり尽くせり、これだったら385ドルとるのも頷けるなあ、
という豪華で優雅なバルーン・サファリ、
そしてシャンパン・ブレックファストであった。
2人とも大満足。
帰途はキーチュワ・テンボ・キャンプに泊まっている白人グループと同乗し、
ゲーム・サファリをしながら。
ドライヴァーは朝迎えに来てくれたのと同じ、でっかいジェイムズ。
キリン、ゾウ、ダチョウ、
そしてじゃれあうライオン・ブラザーズなどを見ながら行くが、
全般的に白人軍団の反応は薄め。
ヤツらの目の色が変わったのは、でっかいジェイムズが
「あれはチーターかも」と双眼鏡を覗きながら言った時だ。
彼に限らず、抜群の視力と経験とカンを誇る彼らガイドが
双眼鏡を取り出した時は要注意である。
ただでさえ強いモビルスーツがさらにビームサーベルを手にしたようなものだ。
この例えがマニアックで分かりにくければ、
まるで素手でも強いボブ・サップが金属バットを手にしたようなものだ。
我々を気にすることもなく、岩の上でくつろぐメスライオン |
近付いていってみるとそれはチーターではなく、
岩の上で昼寝をしているメスライオンであった。
チーターと言ってしまったでっかいジェイムズはバツが悪そうだったが、
近付くまでは我々の目には岩と完全に同化しているように見え、
どちらにせよものすごい視力であることに変わりはない。
かなり近くで見ることができ、その表情もつぶさに観察することができた。
まとわりつくハエが相当に鬱陶しいようで、
ほどなくして彼女はノソノソと、ねぐらを変えるのか歩いて去っていった。
オローロロ・ゲートを出る間際ではマサイ・キリンの群れに遭遇、
走るキリンの姿も見ることができた。
スローに見えるがあの体のでかさ、やはり相当に速いはずだ。
草原を走るマサイ・キリン |
ムパタに戻り、ランチまで少し時間があったのでジャグジーに入る。
今日は本当に真っ青な空が広がる快晴の日、刺すような直射日光が心地良い。
ランチのメニューはおとといと同じ、ビーフ・ストロガノフとポーク・ピカタだった。
ランチの後、部屋に戻って少しだけまどろむ。
14:30、通常よりも30分早めに午後のゲーム・サファリに出向く。
今日の朝、1台車がスタック
(ぬかるみや轍にタイヤをとられて動けなくなること)したらしく、
その車のゲストが満足にゲーム・サファリをできなかったための措置らしい。
何にせよ長く見られるのは我々にとっても好都合、臨機応変な対応にバンザイ。
ドライヴァーはもちろんムパタのジェイムズ、同乗は日本人の中年男女2人。
男の方はムツゴロウさんみたいな人で、一見スリムで背の高いおばちゃんかと思った。
このグループはもう一人、おばちゃんの連れがいるはずだが、
体調が悪いのか不参加。
サヴァンナのメジャーどころ? ブチハイエナ(左)とセグロジャッカル(右) |
今朝見たライオン・ブラザーズの昼寝や、
草原の中で同じく休息しているらしいメスライオン3頭、
それに今回初めてブチハイエナとセグロジャッカルを見ることができた。
この2種はサヴァンナの動物としては割とメジャーな登場人物たちなので、
満足である。
他にも車の中からではあったが
(川沿いでは車を降りてカバなどを観察することができるスポットがいくつかある)、
カバの大群やバッファロー軍団、トピ、ディクディク Dik-dik 、
キリン、ハゲワシなどが見られる。
しかし何といっても今回のゲーム・サファリのクライマックスは、チーター・ファミリーズ。
まず子供を4頭連れてお休み中の母親率いる一家を観察、その後に、
何と木に登っている別のチーターのファミリーを見るという僥倖に恵まれる。
母親が木の中ほどに立ち上がり、枝の分かれ目、
Y字になったところに小さな頭を乗せて遠くを望んでいる。
その下に3頭の子供たち、登ったり下りたり、
ちょっかいなどかけながら非常に微笑ましい光景だ。
傾きかけた陽の中、
他のムパタの車も含めて数台のサファリ・カーが集まってきており、
しばらくの間憧憬の時が流れていた。
木に登っていたチーターの母仔たち |
ひょっとしてこの母チーターは獲物を探しているのかと思い
ジェイムズに尋ねてみたが、恐らく休んでいるのだろうとのこと。
これで現在マサイ・マラに住むというチーター・ファミリー3家族、完全制覇だ。
今回我々が見たように、チーターのファミリーは通常、
母親とその子供から構成されており、大人のオスは単独で生活を送っている。
子供たちは母親と一緒に生活をしていく中で生きてゆく術を学び、
成長して青年期に差し掛かった頃ファミリーを離れ、独立するのである。
一方、ライオンはネコ科に属するものとしては極めて珍しく群れを作る動物で、
“プライド”と呼ばれるその生活集団は、
単独乃至少数のオスと複数のメス、子供たちから成っている。
ライオンは“百獣の王”という
そのニックネームから受けるイメージとはいささか異なり、
実は足が遅く、狩りが上手ではない。
他の動物が狩った獲物を横取りする動物としてはハイエナがよく知られているが、
実際のところライオンも、チーターなど狩りの上手い他の肉食動物たちから
その獲物を奪うことが相当数あることが確認されているということだ。
そんな彼らにとって群れを作って生活をするということは、
ハンティングをチームプレイで行うことができる、ということも意味しており、
生存していく上で有利に働いている要素なのだ。
プライドの長となることができなかったオスたちは独力で行動、狩猟を行い、
いわば放浪状態で生きてゆかざるを得ない。
このライオンのプライドに見られる、いわゆるハーレム状態も
野生動物の社会では多く見られるコミュニティの形態の一つで、
インパラなどの世界もそうなっていることを、
今回の旅で我々も実際幾度か目の当たりにすることができた。
挨拶の意なのか、角をぶつけ合う2頭のオスのインパラ |
この日は我々の車も含めて皆帰りが遅くなってしまったようで、
黙ってガタガタ道の帰路を急ぐジェイムズであった。
今回ケニアにやってきて、
その動作の鈍さにイラつくことはあっても、
テキパキと動くアフリカ人というものを見たことがなかったので、
見た目にもハッキリと焦っているこのジェイムズの姿は少し滑稽だったな。
急げーって感じで。
ロッジに戻り夕食。
今日もステージでショーがあるようで、昨日と同じテーブルだ。
今日はいわゆるオーソドックスな、マサイ・ダンスというヤツかな。
槍持ってピョンピョン跳ぶアレである。
中にはものすごく跳んでるヤツもいたし、全然なヤツもいた。
というか結構おっさんも中にはいたようだ。
連夜のマサイ・ディナー・ショー |
客層的には、昨日よりもさらに日本人率は高まり、
もうほとんどといっていいかも知れない。
カップルも増えたし、謎のオジサン5人組もテーブルについていた。
夕食の後、部屋に戻ってすぐシャワーを浴びる。
もう明後日帰らないといけないんだなぁ。
ここで過ごす時が経つにつれ、
まだまだ帰りたくないという思いが強くなるのであった。
今日も早めに就寝。
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