野球でいえばプレイボール直後の初球をチェンジアップで入るかのような、冒頭作の「老ネプトンの腹の中」でまずは、おおっ、と惹き付けられ、その後、伊庭のエピソードを1つ挟んだ後に、石尾と赤城にまつわるストーリーが少し長めに描かれ、最後は再び白石に戻り、落ち着いた雰囲気でまとめ上げる、という構成が上手い。
「エデン」を読了した時は、この独特な世界を舞台にする限りパターンは至極限られてくるのでは…、と要らぬ心配をしたが、このような外伝ものを活かせば、作品の可能性はより広がっていく、ということがよく分かった。
「サクリファイス」では深く書き込まれていなかった、石尾のパーソナリティーを読者が具体的にイメージできるようになったのが興味深い。
いずれにせよ、「サクリファイス」と「エデン」を先に読んでおくことは必須。
ただ、"ツール・ド・フランス"という大きな目標を諦めていなかった石尾が、その同じ年に「サクリファイス」で描かれていたような行動を取るだろうか…? と今も引っ掛かっている。
そしてもう一点、石尾より年長の設定の安西が、当初は「石尾」と呼び捨てにしていたのに、次の小話では「石尾さん」と言っていたのが気になった。 |