以前、荻原浩氏の「明日の記憶」を読んだ時を髣髴とさせる恐怖に襲われた。
あちらは若年性アルツハイマーだったが、この小説で扱われているのはガッチリ後期高齢者の認知症。
日本社会全体が今まさに、異常とも言えるペースで超高齢化へ向かって走り出している最中、そしてこの世に生きるすべての人々にとって我が事になり得るシリアスなテーマが、恐るべきリアルさを伴って読者の全身に突き刺さってくる。
数秒前に考えていたことが忘却の彼方に去ってしまうことも度々実感し、落ち込む昨今、そんな自分の日常を振り返ってみても、あれ、幸造と一緒じゃないか…、と幾度も背筋が冷える。
誰しもが直面する可能性がある事態だけに、医師でもある著者が特に本書の後半で著している、認知症の老人への接し方は常に意識しておく必要があるものだと感じる。
今は元気な私の親に対しての振る舞い、受け答えについても否応なく考えさせられた。
ストーリーは愚直なまでのド直球で、小説としての技巧は荒いが、介護される側、する側それぞれの心理描写がとても微細で、なぜ著者は当事者の心の内をこれほど具体的に書けるのか? という、あたかも臨死体験を綴った文章を読んでいるのにも似た心境になった。
本当に様々なヒントが詰まっていると思う。
人間は、本来の寿命よりも少々長く生き過ぎるようになってしまったのかもしれない。 |