海洋空間佳本


信長の原理 信長の原理」★★★★☆
垣根涼介
KADOKAWA

2019.1.22 記
著者名を伏せられて読んだとしても、ああこれは垣根涼介だな、と直ちに分かる文体をこのレヴェルで確立しているのは凄い。

明智光秀の興亡を描いた「光秀の定理」とまさに同時代を、今度は信長を主人公に据えて構築した物語ということになるが、やはり誰しもが概況ぐらいは知っている史実が題材なのでまず読みやすい。
「光秀の定理」と異なり、物語の核を担う架空の登場人物が出てこない分、これはフィクションではなくてすべて本当にあった出来事なのではないか、と勘違いしてしまうほどリアルに仕上げられている。
稀なる異才を備えながらも誤解されやすく、そして爆発的な暴力性と残忍さを併せ持った織田信長や、それに付き従う武将たちの人物像が輪郭鮮やかに浮かび上がってくるよう。
読者たる我々は、本能寺の変という、信長と光秀を巡る物語の結末を知っているわけで、そこに至らんと破滅に向かって着実にカウントダウンを続けるかのような展開に息詰まるというか胸がチクチクと痛むというか。
現代のエンターテインメントらしく、最終盤、光秀が謀反を起こさざるを得ない状況に追い込まれてしまうくだりには、本書のパッケージになっている主題に絡む、ちょっとした仕掛けも施されていて、さすが。

おそらく垣根涼介氏は明智光秀のことが大好きなんだろう。
時代小説1作目の主人公に選んだこともそうだが、本書の特に後半を読み進めていくとそう感じる。
読了後、もう一度「光秀の定理」を読んでみたくなった。





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