| まず作中作のレヴェルが高過ぎる、「花の旅 夜の旅」は。 が、それは皆川博子氏(とその読者)にとってはごく当たり前のことか。
 プロットそのものはこう言っては何だが、取り立てて変哲のないサスペンスでありミステリーであるが、その語り口がまさしく超絶技巧という表現がふさわしい上手さ。
 個人的に「薔薇密室」にもつながるのではないかと感じられた複層構造が見事に組み上げられている。
 
 「聖女の島」については、これが読みたくてこのシリーズを購入したと言っても過言ではない。
 一般の立ち入りが解禁される遥か以前に軍艦島に聡く目を付けているが、夢か現か判然としない幻想的な情景と明晰かつ無慈悲な現実が混然と同居する、いかにも皆川氏らしい今作品の息遣いが、その舞台と絶妙にマッチしている。
 "正常な社会人とは、まるで、綱渡りの曲芸師だ……"
 
 巻末に収められた過去のインタヴュー記事群が、本当に貴重だこれは。
 "物語(作品)って完全なこうでなくてはならないという形が既にあって、それをこちらが手探りで書いていく、そういう感覚を持つことがあります。"
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