実は昔からこの本は読みたかった。
題材の重さもあって、なかなか手を出せぬまま月日が過ぎたのだが、ここにきて発覚した尼崎の連続死体遺棄事件。
私もそうだったし、尼崎事件の報に触れた多くの人が、北九州の事件を思い出した、と異口同音に語った。
このタイミングで読むしかない、とページを開いた次第だが、想像していた通りの凄絶な内容だった。
今映画も公開されている「悪の経典」しかり、悪人や犯罪者が物語の主役となる、いわゆるピカレスクものは古今東西数あれど、どんなフィクションもこの実話には遠く及ばない。
例えば脳の一部が欠損した結果、特定のある分野において特異な能力を示すことがある、ということが世の中にはあるが、そんなモデルを思わず頭に浮かべてしまった。
人間として備えているべき感情の多くを生まれつき持たず、その代わりに他人を騙し、脅し、賺し、操ることにおける非凡な才を有する。
そういう突然変異体の怪物がいた、と理解するしかない。
ニンゲンという生き物が存在する意味や価値、というものについてさえ、考えさせられてしまう。 |