天才が冷静沈着に行う犯罪にしては思慮が浅くて突っ込みどころが多いところ、“感情がない”という前提を揺るがしかねない数々の描写、釣井教諭が校長ひいては学校を支配下に収めていた理由に代表される各種動機づけの弱さ等、貴志祐介氏の作品にしては詰めが甘いな、と思わせる点が少なからずあるのだが、それでも一気に読まされてしまう筆力、終盤の大量殺戮絵巻のド迫力に、甘めの5つ星。
雑誌の連載小説だったためか、1冊の長編として見るとまとまりに欠け、立体性が若干乏しくなってしまっているように感じられるのが残念だ。
文庫化の際には手が入れられるのかもしれない、ひょっとしたら。
とはいえ、「黒い家」を書いた貴志氏の手によるものであるから、蓮見という人間が持つ怖さの深奥は充分に伝わってくるし、また「青の炎」や「硝子のハンマー」を少し思い起こさせるような、簡単な物理や化学の知識を応用した犯罪手法にはニヤリとさせられる。
そしていつしか、まさに悪魔と形容する他ないような蓮見に感情移入し、ここまできたら徹底的にやりきってくれ、と望んでいる自分に気づいてちょっとバツが悪くなったり。
例のカラスがもう少し物語に絡んでくるかとも思ったのだが、どうやら途中で忘れ去られてしまったようだ。 |