帯の文句は、「かつて、こんなにも切ない殺人者がいただろうか」だったろうか。
よく言い表したものだと思う。
ストーリーの終盤、主人公少年が殺人を積み重ねていくに至る流れに限ってはやや散漫に、せっかくそこまで完璧なほどに組み立てられきた構築美が少し損なわれてしまった感はあるが、一言で言って、“叙情的犯罪小説”だという気が私はした。
途中に難解な謎が仕掛けられているわけでも複雑な伏線が張られているわけでもなく、淡々と、しかし的確に状況と心情の描写が綴られ、読者すべてを深いシンパシーの渦に巻き込んでしまう。
他の作品を読んでもいつも感じることだが、貴志祐介は、ストーリーの骨子や前提となる設定を創作することではなく、物語を紡ぎ展開していく技術、結末に向けて読む人の気持ちを作中人物と同化させ、ともに高めていく技術にこそ、超人的に秀でている、と私は思う。
蛇足ながら、原作を気に入ったものの映像化の中では珍しく、映画もとてもよかった。 |