海洋空間佳本


インシテミル インシテミル」★★★★☆
米澤穂信
文藝春秋

2010.10.29 記
設定は面白い。
つかみもいいし、そこからの運び方もスムーズ、舞台装置や登場人物の性格付けも充分に興味をそそる。
高見広春氏の「バトル・ロワイアル」や貴志祐介氏の「クリムゾンの迷宮」なんかを彷彿ともさせる、閉じられた空間内における緊迫した時の流れは非常に巧く綴り上げられている。
ただ、締めが弱い。
最後の種明かし一連は呆気ないほどに素直で、また須和名の正体を説明するくだりもイマイチパワー不足。
何より、このように荒唐無稽な仕掛けを施した主催者サイドに関する定義付けの一切は放棄されている。
この種の作品にとって極めて困難で技術を要する、しかしそれだからこそ重要ともいえる、根元的な説得というものによって読者が否応なしにカタルシスを感じることを強いられる、という経験ができなかったのは若干残念だ。
といっても9割方は楽しめたんだけど。
だから星4つ。

ただこの人、上手くすれば次代の井上夢人氏になれるんじゃないかな、などと根拠のないことを読んでいる最中にふと直感してしまった。





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