悲惨な戦争を潜り抜けた戦友たちが主人公となり物語を繰り広げ、そこに戦争を経て肥え太った元兵士も絡んでくる…といった図式から、オールスンの「アルファベット・ハウス」が髣髴された。
「その女アレックス」で一躍我が国では有名になったピエール・ルメートルの作で、ミステリー仕立てではないが、行く末が気になって焦れてくる巧みな筆運びはさすが。
生々しい負傷の描写などをぼかさず、直截的に書き切るあたりも、"らしい"。
作中世界がとにかく濃厚で、読者は知らないうちにそこにどっぷりと引き込まれてしまっているので、カウントしてみると僅か1年余りのスパンの物語なのだが、なんだか長大な大河作品を味わったような気にもなる。
優しさ、弱さ、狡猾、怒り、誇り、悲哀、孤独、家族、愛情、理不尽…、戦争とその後の世相という舞台をギミックにして、"人間"というものを巧く浮き彫りにしている小説だと思う。 |