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スーパープレイヤー列伝


Player File No.12     2003.12.29 (2005.6.7 データ更新)



ダーク・ノヴィツキー Dirk Nowitzki ダーク・ノヴィツキー

フォワード/センター
213cm 111kg
1978年6月19日生
1998ドラフト1巡目9位指名
所属チーム:ダラス・マーヴェリックス
出身:ドイツ
主なタイトル:オールスター選出4回
        2005オールNBA1stチーム
        オールNBA2ndチーム2回
        オールNBA3rdチーム2回
          …など



2003年12月現在、NBAに在籍する唯一のドイツ人プレイヤーにして、
リーグ屈指のフォワードの一人。
ドイツ人NBAプレイヤーといえば、オールスターにも選ばれたこれまた好フォワード、
デトレフ・シュレンプ*1がまず思い浮かぶが、ダーク・ノヴィツキーは
すべての面において彼を凌ぐ実力とスター性を備えたグッド・プレイヤーである。

フォワードでありながら7フッター(213cm)と長身のノヴィツキーだが、
NBAレヴェルで活躍するヨーロッパの選手のご多分に漏れず、非常にシュートが上手い
15〜20フィートほどの中距離から放つジャンプシュートの安定感はもとより、
スリーポイントシュートも非常に高確率でリングに沈めてくる。
昨シーズン終盤、プレイオフ中に負ったヒザの怪我の影響と、
それをおして昨オフ、ドイツ代表としてアテネ五輪予選に出場した疲労からか、
今シーズンこそ今のところその数字は奮わないが(27.1% 12月28日現在)、
例年、スリーポイントシュートの確率は40%近くを着実に記録している。
また単純な確率のみならず、大事なところで必要な得点を決めることができる力、
いわゆるエースとしての非凡性もノヴィツキーは十分に持ち合わせているといえる。

彼に限らず、アルヴィダス・サボニス*2しかり、ヴラデ・ディヴァッツ*3しかり、
先述したようにヨーロッパ出身のプレイヤーはいくら長身であっても、
またポジションに関わらず、ほぼ例外なくロングシュートを放つことができる


2002年の世界選手権におけるチームUSAの惨敗(6位)も記憶に新しいように、
ここ数年でこそヨーロッパや南米の強豪国とアメリカの力の差は
確実に小さくなってきているが、それ以前、
アメリカのバスケに追いつき追い越せ状態だった各国ナショナルチームのあり方としては、
各個人の能力そのものではアメリカの選手にはおいそれと敵わないものがあるから、
そのギャップは全体のチーム力で補っていくしかない、というものだった。
つまり比較的体の小さなガード・プレイヤーといえども
積極的にリバウンド争いに参加しなければいけないし、
ビッグ・フォワードやセンターの選手たちもドリブル・スキルはおろか、
スリーポイントシュートを普通に撃つことができるようでなければ、
とても世界一のバスケットボール大国には太刀打ちできなかったわけである。
速さや個人技で劣るのならば、ロングシュートの確実性や
多岐に渡るフォーメーションで勝らなければならない。
どこかで相手を上回る要素を作らなければ当然相手に勝つことはできないという、
自明の理である。
ディフェンスに関しても、マンツーマンでなくゾーン・ディフェンスだけをとるならば、
ヨーロッパ、南米の強豪国の実力はともすればアメリカを凌駕している。

ちなみに蛇足だが、こういった最近のバスケットボールを取り巻く世界の趨勢が、
NBAを含むアメリカのバスケ界に強く影響を与えていると私は思う。
少なくともこれまで、
圧倒的なパワーと歴史の重みだけで頂点に君臨してきたアメリカにとって、
7フィートを超えるプレイヤーがスリーポイントシュートを撃たなければいけない、
という発想はなかった。
そんなことをしなくても常に勝ってきたから。
ところが繰り返しているようにもう今はそんなことを言っている時代ではなくなってきた。
NBAに在籍する外国人プレイヤーは年を追うごとに激増し、
そのプレイスタイルも少なからず変革を遂げてきている(最近のNBA参照)。
ゾーン・ディフェンス禁止の撤廃をはじめ、
ここ数年リーグが行っているルール変更にまで、その影響力は及んでいるのである。

思わず前振りが長くなってしまったがつまり、
そんなお国事情があればこそ、ヨーロッパの長身選手は
ガードの選手たちと同じようにロングシュートも撃てるのだろうということだ。

これまた関係ないけれど、ノヴィツキーは実際にはものすごく上手いシューターなのだが、
そのシュートフォームを見ている限り、とてもそうは思えないところがある。
体がデカいから余計にそう見えるのかも知れないけれど、
シュートの初動動作からフォロースルーに至るまでの一連の流れがどうにもぎこちなく、
まるでロボットがギコギコ言わしながら投げているように見えるのである。
ボー・アウトロー*4クリス・ダドリー*5を彷彿とさせるかのようなそのぎこちなさ。
彼らと例えてはノヴィツキーに失礼だな…。

その卓越したシュート力をはじめ、
オフェンス面でのノヴィツキーの能力は実に高い
無論フリースローも上手ポストプレイもできるし、
ド迫力のペネトレイト*6も破壊力抜群である。
ただ、クイックネスとジャンプ力に関しては並のレヴェルでしかないので、
もっぱらペネトレイトは顔のいかつさを武器に突っ込んでいっているふしがある。
そのためゴール下での接触時などにモロにディフェンスのプレイヤーと激突してしまい、
それを原因とする怪我が多いというのが残念ではある。

ディフェンスについても、
キャリア平均で1試合当たり8本を超えているリバウンドは及第点だと思うが、
スティール(キャリア平均 0.99/試合)、
ブロック(キャリア平均 0.98/試合)に関しては
彼の持つ潜在能力から考えたらまだまだ向上の余地は残されているように感じる。

ノヴィツキーの他にもスティーヴ・ナッシュ*7マイケル・フィンリー*8を擁し、
ここ数年強豪としての地位とイメージも確固たるものにしてきた感のある
ダラス・マーヴェリックス
今シーズンはさらに、アントワン・ウォーカー*9アントワン・ジェイミソン*10という
2人のアントワンを加え、より厚い選手層で戦っている。
そしてその中で堂々とチームのエースを任されているダーク・ノヴィツキーの
信頼感安定性はまさにリーグでも屈指の存在感といえる。
打倒レイカーズの悲願が達成されるか否かの分かれ目も、
彼の双肩にかかっているといっても過言ではないかも知れない。

私個人的には打倒レイカーズ、最右翼だと昨シーズンから思ってます。






*1 デトレフ・シュレンプ…まだNBAに外国人プレイヤーが目立たなかった時代、
   1985年から2000年まで、インディアナ・ペイサーズ、シアトル・スーパーソニックスを中心に
   活躍した208cmのドイツ人フォワード。オールスターには3度出場、6thマンアウォードを
   2年連続で受賞した、まさにいぶし銀の名バイ・プレイヤーであった。

*2 アルヴィダス・サボニス…リトアニア出身、221cmの巨体を誇ったセンター。
   1988年のソウル五輪に旧ソ連代表のエースとして出場、アメリカに完勝して
   見事金メダルを獲得した原動力となった。全盛期は、サイズ、スピード、テクニックを兼ね備えた
   世界最高のセンターだったが、諸事情によりNBAに入ったのは30歳を越えてから。
   残念ながら往年のスーパープレイは見られなかったものの、そのパスワークと
   やわらかいシュートタッチはさすがだった。NBAからは昨シーズン限りで引退。

*3 ヴラデ・ディヴァッツ…ユーゴスラヴィア(現セルビア・モンテネグロ)出身のセンター・プレイヤー。
   レイカーズ、ホーネッツを経て、1998シーズンからはサクラメント・キングスに所属、
   2001年にはオールスターにも出場したヴェテラン。圧倒的なパワーはないが、
   ヨーロッパのプレイヤーらしく7フッターながらもアウトサイド・シュートとパスが上手い。

*4 ボー・アウトロー…現在メンフィス・グリズリーズに所属するパワー・フォワード。
   ガッツあふれるプレースタイルが身上のヴェテランだが、シュートが恐ろしく下手で、
   通算フリースロー成功率はわずかに5割を超えた程度。

*5 クリス・ダドリー…一昔前、“シュートの下手なNBAプレイヤー”といえば
   必ず名前が挙がっていた白人センター。何と通算のフリースロー成功率は
   かのシャックをも下回る50%未満。フリースローが外れた時の「ガンッ」という音が、
   レンガを投げた時の音に似ている、ということからフリースローの下手な人のことを
   “ブリック・スロワー(レンガを投げる人)”と呼ぶが、彼はまさにその代名詞であった。
   センターとしてゴール下でのディフェンスではそれなりに活躍していた。昨シーズン限りで引退。

*6 ペネトレイト…和訳は「貫く」。ゴール下に切り込んでいくプレイのこと。

*7 スティーヴ・ナッシュ…ダラス・マーヴェリックスのカナダ人ポイント・ガード。
   特に超人的に秀でた一芸を持っているわけではないが、アシスト、得点力、
   リーダーシップ、判断力など、すべてにおいて優れた能力を有したオールスター・プレイヤー。
   サッカー・フリークとしても知られる。

*8 マイケル・フィンリー…ダラス・マーヴェリックスのガード/フォワード。
   非常に高いアスリート能力を持ち、優れた得点力を備えたプレイヤー。高校生の頃に、
   当時の若きスーパースター、マイケル・ジョーダンとテレビの企画で1on1をしたこともあるという。
   また、1997年オールスター・ウィークエンドのダンク・コンテストでは、名高い“側転ダンク”に
   果敢にも挑みしかも失敗、全NBAプレイヤー並びにファンを爆笑のるつぼに巻き込んでくれた。

*9 アントワン・ウォーカー…今シーズン、トレードでボストン・セルティクスからやってきた
   オールスター・フォワード。派手さはないものの安定して20点前後のアヴェレージを
   記録しているプレイヤーで、そのパワフルなイメージに似合わず、スリーポイントシュートも多投する。

*10 アントワン・ジェイミソン…同じく今シーズン、ゴールデンステイト・ウォリアーズからきたフォワード。
   トロント・ラプターズのヴィンス・カーターとはノース・キャロライナ大学時代のチームメイトで、
   当時はカーターよりも評価が高く、ドラフト指名順位も上だった。彼も得点力では定評があり、
   2試合連続で50ポイント以上得点したこともあるなど、爆発力も備えている。





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