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スペシャルコラム




vol.3 2006 FIBA バスケットボール世界選手権 グループD観戦記     2006.8.22


僕が生きている間にはもうおそらくないであろう
自国開催の「FIBA バスケットボール世界選手権」、
そのグループゲームラウンド グループDを観戦しに、
2006年8月20日(日)から21日(月)にかけて札幌へ一人で行ってきた。

神戸空港12:05発のANAに乗って新千歳空港へ降り、JRで札幌駅へ、
そこでジンギスカン弁当で遅めの昼食。
駅構内のそこかしこでものすごい人だかりができているので何事かと思いきや、
高校野球決勝戦 駒大苫小牧vs早稲田実業が行われている最中。
なるほど。

豊平公園駅構内にあった手作り感溢れる造作物
最寄り駅構内に貼ってあった手作り感満載の飾りつけ

豊平公園駅で下車、16時少し前、会場の「きたえーる」に到着した。
飛行機の時間の都合上、第1試合のプエルトリコvsセネガルは観れなかったが、
第2試合のスロヴェニアvsイタリアのティップオフは16:30なので充分間に合った。
まずはグッズショップを覗きチョコチョコと買い込む。
Tシャツなんかはもう品切れしているものもあった。
観戦しに来ている人たちは、やはりバスケの試合だからか、
身長の高い人が多い、マジで。
175cmの僕は明らかに下から数えた方が早いカンジ。
余談ながら札幌駅からの地下鉄の同じ車両に、
スロヴェニア人の応援団と乗り合わせた。
選手ではないのにやつらの平均身長は目測185cm。
さすがだ。

「きたえーる」前
会場となった「きたえーる」

中に入る
コートを見るとやはり気分が高揚する

席はなんとなんと最前列なのですぐ目の前で代表選手たちが練習している。
これは試合開始30分前といえども席を離れるわけにはいかんな。
国民性の違いなのか、それとも単に僕の気のせいか、
イタリアの選手の方が練習では手を抜いているように見えた。
観客はと見れば対照的に、スロヴェニアの応援団の方が陽気で騒がしいじゃないか。
人数も確かにイタリアよりも多かったが、ちょっと意外。

席は最前列なので目の前でイタリアチームが練習している
すぐ目の前でイタリアチームが練習している

大騒ぎしているスロヴェニアの応援団
とにかく最初から最後まで騒がしかったスロヴェニアの応援団

スロヴェニアに比べるとおとなしかったイタリア応援団
スロヴェニアに比べると人数でも騒がしさでも圧倒されていたイタリア応援団

スロヴェニア代表チーム
スロヴェニア代表のエース、ラショ・ネステロヴィッチ

そうこうしているうちにアナウンスが聞こえ、いよいよスロヴェニアvsイタリアが始まった。
世界ランクはイタリアの方が上だが、個人的には、
ラドスラフ(ラショ)・ネステロヴィッチボスジャン・ナックバー
プリモ・ブレゼッチベノ・ウドリーという4人のNBAプレイヤーを擁する
スロヴェニアの方が強いのではないかと予測。
旧東欧チームの常で、
ビッグマンも多くインサイドでもイタリアを圧倒しそうな気がするが…。

スロヴェニアvsイタリア、ティップオフ
スロヴェニアvsイタリアのティップオフ

果たして試合が始まってみると、第1クォーターはスロヴェニアが大量リード。
国際ルールならではの密集したタイトなディフェンスの中、さすがの最前列、
飛び散る汗も見えれば体がぶつかり合う音も聞こえる。
特にスロヴェニアのディフェンスが面白いぐらいに機能しており、
イタリアは全然中に入れない。
時間がなくなって苦し紛れに無理な体勢からアウトサイドを撃ってミス、のパターン。
対してスロヴェニアはネステロヴィッチナックバー
ブレゼッチが前評判通りの活躍でコンスタントにスタッツを積み重ねている。
こりゃこのままスロヴェニアの楽勝か…?

ところがところが、後半に入ってから流れが変わる。
スロヴェニアのリズムが攻守ともにおかしい。
前半のリードで勝ちを意識した?
あるいは陽気なイタリア人が死に物狂いになった?
イタリアのショットの精度が抜群に上がり、特にガードのマルコ・ベリネッリ
ファビオ・ディ・ベッラジャンルカ・バジーレが目立つ。
とりわけベリネッリの超人的な活躍はすごかった。
彼は現在イタリアの国内リーグでプレイしているみたいだが、まだ20歳
NBA入りの可能性も充分あるんじゃないか?

最後の最後までもつれた好ゲームは、結局イタリア80-76の僅差で勝利
いやー、面白い試合だった!
紛れもなく世界の戦いだ。

試合終了
最後までもつれた接戦はイタリアが制した

この後はいよいよアメリカvs中国
観客も増えてきたし、練習の時から大いに盛り上がる。

アメリカチームと中国チームの練習が始まった
いよいよアメリカチームと中国チームがウォームアップを始め、きたえーるは盛り上がる

今度はUSAが目の前で練習中
数メートル先でアップしているUSAのプレイヤーたちを前にテンションも上がる

ドウェイン・ウェイドが、レブロン・ジェイムズが目の前でシューティングをしている
この世のものとは思えぬ光景に恍惚。
アップでダンクやアリウープを繰り出すたびに客席からも大きな歓声が上がる。
USAの選手たちもそれを楽しんでいるようで、リラックスしているカンジ。
しかしいかにも好調そうなカーメロ・アンソニーシェーン・バティエウェイドと違い、
レブロンはちょっとシューティングの精度も低く、ハンドリングも不調みたいだ…。
ちなみに観ていたらルディ・トムジャノヴィッチが目の前を通ったのでビックリした。
アシスタントコーチにも入っていなかったが、何かのスタッフとして帯同しているようだ。

アップでダンクをかますレブロン
アップ中にボースハンズダンクをぶちかますレブロン

いかにも好調そうなウェイド
いかにも好調そう、動きのいいウェイド

こちらも調子のよさそうなカーメロ
カーメロも調子がよさそうだ

対する中国チームにも、個人的には大いに興奮した。
ワン・ジジモ・ケイタリアvsスロヴェニア戦の終盤にスタンドに姿を現していたし。
また、次にNBAプレイヤーになる中国人、と僕が勝手に思っている、
スピードとテクニックに溢れた18歳のビッグマンである
イ・ジャンリャンを観るのも非常に楽しみ。
もちろん誰よりも忘れてはいけない、ヤオ・ミンも健在、
229cmの体はやっぱりありえないや!
ケガで出場が危ぶまれていた時期もあったが、とにかく出られてよかった。

スロヴェニアvsイタリア戦の終盤、スタンドに姿を現したワン・ジジ(右)とモ・ケ(左)
スロヴェニアvsイタリア戦の終盤、スタンドに姿を現した中国人初のNBAプレイヤー、
ワン・ジジ(右)とモ・ケ(左)


18歳の才能溢れるビッグマン、イ・ジャンリャン
次にNBA入りする中国人プレイヤー? イ・ジャンリャン

フリースローを撃つヤオ・ミン
今や世界を代表するセンターの1人、229cmのヤオ・ミン

ワン・ジジとドワイト・ハワードによるティップオフ
ワン・ジジとドワイト・ハワードによるティップオフ

19:30USAvs中国が始まった。
最初からアメリカがとばす。
確かに中国はアジアでは比類なきチャンピオンチームだが、それなのに、
こと身体能力だけをとってもやはり目に見えて違う、アメリカは。
また、普段NBAでプレイしている選手にとっては
国際ルールのスリーポイントラインはスリーポイントラインではなく、
決してNBAではスリーポイントシューターではないアントワン・ジェイミソン
バティエメロがポコポコとスリーを決める。
特にメロはスリーのみならずパワープレイも含め、
開始早々から早いペースで得点を重ねている。
もちろん攻撃だけじゃなくてディフェンスもしっかり機能しており、
このあたりはカレッジ・バスケットボールを知り尽くしているコーチK
マイク・シャシェフスキーの手腕のなせる業か。
チーム編成のバランスがいいということもあるだろう。
スターを12人集めるのではなく、数人のスーパースタープレイヤーと、
多くのロールプレイヤーを集めたことは大成功だったと思う。
NBAのシーズン中は並以上のディフェンダーではないメロ
頑張ってマンマークしていた。
レブロンは練習時に感じた心配が的中し、
シュートタッチが悪くイマイチ調子が上がらない。
また、ちょっとした驚きだったのは
スターターを務めたドワイト・ハワードがセンターとして見事に働いていたこと。
高卒ルーキーとしてNBAに入った当初は線が若干細かったが、リーグでもまれて2年、
心身ともにたくましく成長しているようで。
ダンクに跳んだハワードに対してブロックにいった
確かにボールをヒットしたはずなのにそんなことなどお構いなしにリムに叩き込まれ、
おまけにファウルまでとられてしまい、
放心したように首をかしげていた姿が印象的だった。
ビッグマンの少ない今回のUSAチームにおいては
重要なインサイドプレイヤーとなるだろう。

ハーフタイムに登場した今大会のマスコットキャラクター、「バッド ばつ丸」
ハーフタイムに登場した今大会のマスコットキャラクター、「バッド ばつ丸」
かわいくない…


アメリカの大量リードで折り返した後半、なめたのか油断したのか、
中国が一気に差を詰め始めた。
ヤオジジはもちろんのこと、7番のワン・シペン、5番のリュー・ウェイ
そして4番のチェン・ジャンハあたりが素晴らしい活躍を見せる。
特に印象に残ったのがシペンの得点力とチェンの速さ。
185cmのガード、チェンはデータを見るとなんとまだ17歳
こりゃすごい。
彼もまたNBAのスカウトのチェック網に掛かったことは間違いないだろう。
よくよく見ると中国は20代前後の若い代表選手が多い。
個人個人のプレイ、チームプレイともに、
やっぱり悔しいんだけど日本を明らかに超越しているんだな、さすがアジアの雄。
もダンクを4〜5本決めていたし、パワー不足は否めないがとてもよくやっていたと思う。
212cmであれだけ動け、
18歳で国際舞台であれだけ落ち着いてプレイできるアジア人はいないぞ。
その他、15番のドゥ・フェン
8番のツ・ファンギュも充分に役割を果たしていたように見えた。

ところがそんなアジアチャンプが猛追したところで、
追いすがれないのが今回のUSAチームの強さ。
差を詰められた、といってもまだ約20点差がある段階で、
アメリカは驚異のオールコートプレスを掛けてきた。
カーク・ハインリックが、ウェイドが、
クリス・ポールがフルコートに渡って圧力を掛けている。
たまらずターンオーヴァーを連発してしまう中国を誰が責められようか。
繰り返すけど本当に今回のUSA代表の本気ディフェンスはすごい。
今回の大会は、ただ「勝つ」のではなくて、
「圧倒的に勝つ」ことを目標に掲げているのだなアメリカは、
ということがひしひしと感じられた。
攻撃も無論破壊力抜群で、ファストブレイクではレブロンウェイドがダンクを連発。
またハインリックポールのガード陣も観客が何を観たいのか心得たもので、
ファストブレイクではちゃんとフィニッシュにつながるパスをウェイドレブロンに送る。
ちなみにレブロンウェイドはSGの裏表としてこの試合は起用されていた。
2人が同時にコートに立つことはたぶんなかったはずだが、
ウェイドが引っ込んでもレブロンが出てくるという、
対戦相手からしたら悪夢のようなローテーションが実現していたのだった。

とにかく一言で言うと、チームとして、
ゲーム全体を通したスピードとクイックネスが全然違う。

若い中国も、ヤオのブロックなど、ディフェンスも頑張ったが、
ヤオは無念のファウルドアウト
判定には相当怒っていたけど…。
高さでは中国も充分対応していた、
というかインサイドプレイヤーの身長はむしろ上回っていたぐらいだが、
フィジカルで圧倒されたといっていいだろう。

残り7分30秒の時点でアメリカはすでに100点オーヴァー
最終的なスコアは121-90だった。
いやあ、これまたいい試合を観せてもらった!
デューク大での教え子、
バティエらにこれ以上ないといった最高の役割をキッチリプレイさせるコーチKのもと、
Dにも本気で取り組むUSAの気合を見た。
こりゃ決勝は間違いないんじゃないかな?

終わってみれば大勝のアメリカチーム
勝利を喜ぶアメリカチーム

エピローグ。
興奮状態のまま超満員の地下鉄に乗ってきたえーるを後にし、
豊水すすきのという駅で降りて徒歩で宿泊するホテルを目指す。
途中、10人ほどの行列を作っているラーメン店、
「ラーメンの寶龍 総本店」という有名店の前を通り掛かったので、、
せっかくだし1杯喰って帰るかと並んでみた。
結果的にこの判断が直後の幸運につながったわけだが、
メニューなど見ながらボーっと路上に並んでいたら、
なにやら向こうからデカい外人4人組が歩いてこちらにやってくる。
お、お、お!
これはひょっとしてスロヴェニア代表のラショ・ネステロヴィッチ他ご一行ではないのか!
これはまさに千載一遇の機会、すかさず話し掛け、
首尾よく一緒に写真を撮ってもらった!

ススキノの路上で遭遇したスロヴェニアの選手たちと! 左から2人目がネステロヴィッチ
左から2人目がNBAプレイヤーのネステロヴィッチ(216cm)
175cmの僕は肩までも届いていない…


ネステロヴィッチはすでにNBAで8シーズンを過ごしている
スロヴェニアの中心プレイヤー。
彼の顔と名前はバッチリ知っていたので声を掛けることができたが、
さすがに他の3人のプレイヤーは分からなかった。
後で調べたところ、マルコ・ミリッチサショ・オズボルト
ゴラン・ドラジッチというプレイヤーだったようだ、たぶんだけど。
いやー、しかしNBAプレイヤーと街で遭遇、
写真まで撮れてしまうとはなんとラッキーな!
ちなみにラショ他の皆さんは、試合に惜敗した夜だというのに親切に対応してくれた。
ナショナルチームの選手なのに、交代でカメラのシャッターまで押してくれて!
ええやつらや!

エピローグ第2弾。
21日午前
友人と待ち合わせて札幌パークホテルのロビーでお茶を飲んでいたのだが、
隣のテーブルに座っていたのは明らかに
バスケットボール イタリアチームの関係者たち。
彼らの帰り際、
目が合ったので何気なく会場のきたえーるで買ったグッズなどを見せながら
「昨日ゲーム観たよ。ベリネッリはすごかったね!」などと話し掛けてみたらビンゴで、
なんとスタッフの1人が青いイタリアチームのTシャツを僕と友人の分、2枚くれた!
いやー、またもラッキー、話し掛けてみるもんだなあ。






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