スーパープレイヤー列伝
Player File No.7 2003.5.23 (2004.11.2 データ更新)
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Chris Webber クリス・ウェバー
フォワード
208cm 111kg
1973年3月1日生
1993ドラフト1巡目1位指名
所属チーム:サクラメント・キングス
出身校:ミシガン大
主なタイトル:1994新人王
1999リバウンド王
オールスター選出5回
2001オールNBA1stチーム
オールNBA2ndチーム3回
…など |
2003年現時点で、最も器用で多彩な能力を有するパワー・フォワードがこのクリス・ウェバー。
208cm、111kgと、パワー・フォワードとして申し分ない堂々たる体格を持ちながら、
その体躯とはまったく似つかわしくない、とても器用なプレイを見せる。
2002-2003シーズンにおける一試合あたりのアシストは5.4と、
平均的なポイント・ガードの値にも迫ろうかというその数字からも窺い知ることができるように、
パスもとても上手い。
特にゴール下、インサイド・プレイヤーたちが密集した中から糸のようなパスコースを見つけ出して、
そこから送り出すパスの精度の高さはフォワードとしてはまるっきり群を抜いている。
パスのほか、ドリブルを始めとするボール・ハンドリングの能力も非常に高い。
相手チームのターンオーヴァー*1から速攻に参加する際に
自らボールをフロントコートに運ぶことも珍しくなく、
またその折にガード顔負けのビハインド・ザ・バック*2やレッグスルー*3を見せることもたびたび。
ウェバーは大多数の大型NBAプレイヤーの例に漏れず、大きくて分厚い掌を持っているが、
その巨大な手を実に上手く活かしてボールを扱っているな、という印象を非常に強く受ける。
フリースロー(キャリア通算62.5%)と
スリーポイント・シュート(キャリア通算29.9%)は苦手としているものの、
ペイント・ゾーンの外、中距離から放つジャンプ・シュートは安定性もあり、
ここ数年急増してきた“外でもプレイできるインサイド・プレイヤー”の代表格であり、
また先駆者の一人であるとも言える。
このように、パワーとサイズとスピードを備えた、ガード・テイスト溢れるビッグ・フォワード、
と称してもまったく遜色ないクリス・ウェバーというプレイヤーだが、
実はその彼の最大の長所こそが同時に、彼の最大の短所でもある、
ということを私はここ数年ずっと感じてきた。
どういうことなのか一口で表現すると、
「もっと中に入ってプレイしたらいいのに!」と常々思っていたということである。
分かりやすく端的に数字で表してみると、
ウェバーの2002-2003シーズンのフィールドゴール・パーセンテージ*4は46.1%。
およそNBAを代表するパワー・フォワードの数字としては甚だ貧相なことこの上ない。
ちなみに今シーズン限りで現役を退いたポイント・ガード、
ジョン・ストックトン*5の通算成績は51.5%。
二人のポジションの違いも考慮すれば、その差は単純な数字の差の何倍、
何十倍に相当するだろうか。
足りないものはウェバーの能力そのものではなく、
ひとえにプレイ・スタイルの選択を誤っているような気がしてならない。
またそこには、NBAの中では決して強靭とは言うことができない
ウェバーの精神力も少なからず影響しているのかも知れない。
オールスターの常連で、NBAを代表するフォワードの一人と久しく言われながら、
かつてのマイケル・ジョーダンや、シャキール・オニール、ティム・ダンカン*6たちのように
チームを頂点へと導くことのできる、絶対的なエースと呼べるだけのものを
これまで示すことができなかったクリス・ウェバー。
その主たる要因の一つには、いざという時、
大舞台になればなるほど存在感が薄まってしまう彼のメンタリティの部分、
また、そういった場面になればなるほど、アウトサイドのプレイに頼りがちになってしまう
これまた彼の弱気なメンタリティが多分に関わっている、と私は考える。
チームの大黒柱を務め上げるには何かが足りない、
どうも精神的に脆弱なプレイヤーだという印象と、その印象を生み出す結果しか、
ウェバーは今のところ残せてはいないのではないだろうか。
さらにもう一つ付け加えるならば、ウェバーはとても怪我の多いプレイヤーである。
今のところ丸一年休んだりとかいう大事には至っていないが、
脱臼や捻挫などで欠場するケースは本当に多い。
アンファニー・ハーダウェイ*7やグラント・ヒル*8の例を出すまでもなく、
いくら才能や実力を持っていても、怪我がそのプレイヤーの真価を貶めてしまうことは
枚挙に暇がない。
そんなクリス・ウェバーも、プロ入りした初年度、NBA新人王を獲得した1994年は、
フィールド・ゴール・パーセンテージも55.2%と、
インサイド・プレイヤーとして充分に胸を張れる数字をマークしていた。
その後経験を積み、パスやフェイク、アウトサイド・シュートなど
様々なスキルを身に着けていったのと反比例するように、
本来パワー・フォワードが果たすべき仕事を忘れていってしまったような気がして、
とても残念かつ歯がゆかったのである。
インサイドでの支配力を保ったまま、
他のパワー・フォワードが持ち合わせない新たに覚えたスキルを活かすことさえできれば、
ウェバーはもっともっと上に上り詰めることができる、
また彼には十二分にその能力がある、ということが分かっていただけに。
今少し話が出たので、ウェバーがNBAに入る前後のことをちょっと振り返ると。
クリス・ウェバーという名がまず広く世に聞こえたのは、1992年のNCAAトーナメントでのこと。
その年、ウェバーの在籍していたミシガン大学のスターターは、
何と彼を含めて5人全員が一年生。
ジュワン・ハワード*9、ジェイレン・ローズ*10らとともに構成されていたその5人は、
畏敬の念を込めて“Fab 5(信じ難い5人)”と名付けられ、
その名に違わず圧倒的な強さを発揮。
決勝でデューク大学に敗れて惜しくも全米チャンピオンにはなれなかったものの、
見事な快進撃を果たした。
そしてクリス・ウェバーの名がさらに忘れられないものとして全米に轟いたのは翌年、
1993年の同じくNCAAトーナメントだった。
“Fab 5”が2年生になったその年も、ミシガン大学は相変わらずのチーム力を誇り、
前年に引き続き激戦のNCAAトーナメントを勝ち抜いて決勝に進出、
ノース・キャロライナ大学と全米大学王座を賭けて戦った。
その試合の残り11秒、ミシガンが2点ビハインドの場面で
ウェバーはタイムアウトを要求したのだが、何とその時、
すでにミシガンは規定のタイムアウトを使い果たしており、もう残っていなかったのである。
ウェバーのそのコールはテクニカル・ファウル*11扱いとなり、
ノース・キャロライナにフリースローを献上、
その瞬間、ミシガン大学の2年越しの夢は儚く潰えたのである。
その日を境に、“もう残っていないタイムアウトを要求した男”として
クリス・ウェバーは名を売る羽目になってしまったのである。
次の年こそ3度目の正直、悲願に賭けると思われたウェバーだったが
そうはせずにNBAへのアーリーエントリーを表明。
1993年のドラフト全体1位でオーランド・マジックに指名されるが、
その日のうちに3位指名のアンファニー・ハーダウェイ*7とトレードされて
ゴールデンステイト・ウォリアーズに入団、
その後ワシントン・ブレッツ(現ウィザーズ)を経て今に至る、といった具合。
ここまでクリス・ウェバーについて散々苦言を並べてしまったが、
一つ誤解がないように言っておくと、筆者はクリス・ウェバーの大ファンである。
彼がプロに入るか入らないかの頃からずっと、とても大好きな選手の一人なのである。
そしてそんなファンの贔屓目を抜きにしてまったく客観的に観たとしても、
今シーズンのウェバーは飛躍的に向上した、と強く思う。
惜しくもプレイオフの最中に怪我をしてしまい、
キングスもそれを受けてか途中敗退してしまったが、
今年のプレイオフのウェバーはとても頼もしく見えた。
先述したような、“中でプレイするべき時に外で外でプレイしてしまう”
という悪い癖はまったくなりを潜め、まさにチームのエースと呼ぶにふさわしい活躍を見せ、
そして彼自身の中に満ちているであろう、
このチームは俺が引っ張るんだ、とでも言いたげな
アグレッシヴな気持ちを連日披露してくれていた。
スポーツに限らず、“たら”、“れば”の話をしても仕方ないが、
もしあのままウェバーが健康を維持していたら、
今年のNBAチャンピオンの行方もまた違う結果になっていたのかも知れない。
一ファンとして、来シーズン、クリス・ウェバーに託す期待は大きい。
*1 ターンオーヴァー…シュートミス以外の方法で、ボールの保持権を相手チームに渡してしまうこと。
たとえば、スティール、ドリブルミス、パスミス、アウト・オブ・バウンズなど。
*2 ビハインド・ザ・バック…ドリブル・テクニックの一種で、背中の後ろに手を回して行うドリブルのこと。
*3 レッグスルー…同じくドリブル・テクニックの一つで、足の間を通して行うドリブルのこと。
*4 フィールドゴール・パーセンテージ…ゲーム中に放ったシュートのうち、決めることができた確率のこと。
日本語でいうと、野投率。
*5 ジョン・ストックトン…惜しまれながら2003年限りでユニフォームを脱いでしまったが、
80年代後半、90年代を代表する、紛うことなきNBAナンバーワン・ポイント・ガードにして、
アシスト(15806)とスティール(3265)のNBA歴代通算記録保持者。
チームメイトだったパワー・フォワード、カール・マローンとの絶妙なコンビプレイは
伝説の域に達していた言っても過言ではない。所属チームは生涯を通して、ユタ・ジャズ。
*6 ティム・ダンカン…2003年現在、NBAでもっとも高い実力ともっとも高い安定感を誇るパワー・フォワード。
サンアントニオ・スパーズ所属、213cmとサイズにも恵まれ、派手さはないものの
基本に忠実で堅実なプレイはまさに職人業、初代ドリーム・チーム・メンバーのセンター、
デヴィッド・ロビンソンとのツインタワーは脅威的ですらあり、
プロ入り2年目の1999年、NBAチャンピオンに輝く。その年にはファイナルMVPも獲得、
さらに2002年、2003年と2年連続でシーズンMVPを獲得している。
また、ルーキーイヤーから現在まで6年連続でオールNBA1stチームに選ばれているという、
まったくもってそら恐ろしい、若きビッグマン。
*7 アンファニー・ハーダウェイ…NBA入り当初は“マジック・ジョンソン2世”の呼び声も高かった
天才大型ガード・プレイヤー。そのポテンシャルはNBAでもトップクラスと言われているが、
度重なる大きなケガによりここ数年は満足なシーズンを送れていない。
2003年現在はフェニックス・サンズ所属。
*8 グラント・ヒル…オーランド・マジック所属のスモール・フォワード。パス、シュート、リバウンド、
そして身体能力と、すべてにおいて高い能力を持つオールラウンダーとして、
また優等生のイメージを持つクリーンなプレイヤーとして1994年、デトロイト・ピストンズに入団した当初から
これからのリーグを背負っていく存在として期待されていたが、左足首の大怪我により
ここ3シーズンは合わせてたった47ゲームにしか出場できていない。
*9 ジュワン・ハワード…2003年現在、デンヴァー・ナゲッツ所属のフォワード。
一時はあのマイケル・ジョーダンも目をかけていた有望な選手だったが、
プロ入りしてから伸び悩む典型的なプレイヤーの一人。
また、コート上での活躍に見合わない高額サラリーをもらっている選手の代表としても
たびたび俎上に上る気の毒なプレイヤー。
*10 ジェイレン・ローズ…インディアナ・ペイサーズ→シカゴ・ブルズ所属のガード/フォワード。
上記のジュワン・ハワードとは対照的に、プロで経験を重ねるごにその結果と評価は上がってきている。
1999年以降、弱小チームとして低迷を続けるブルズにとって欠かすことのできないポイント・ゲッター。
*11 テクニカル・ファウル…プッシング(押す)やハッキング(叩く)、チャージング(ぶつかる)など、
ゲームのプレイ中に発生する直接的なファウルではなく、相手選手や審判を罵ったり、
下品なパフォーマンスをするなど、いわゆるスポーツマン・シップに反する行為に対して課されるファウルのこと。
相手チームには1本のフリースローと、その後のボール保持権が与えられる。
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