いい小説というのは、字面を追いながらもまるで映画を観ているかのように音を伴った映像が脳内に再生されるものだが、この作品はまさしくその類の小説で、なかなか事情が明かされず詳細不明なままではあるが、冒頭からものすごい存在感と重量感を以て読者に圧し掛かってくる。
重い、暗い、湿っぽい、辛気臭い、といった形容詞を連想してしまう、鈍色に染まったような世界。
その犯罪行為で本当に殺人罪が適用されるか? 舞子が面会や仮釈放を拒絶し続けた根源は一体何で、出所後はあっさりと雅雪を受け入れたのはなぜ? 徹底的に贖罪を全うしようとする雅雪の理屈の筋道がやっぱり腑に落ちない等、個人的に瑕疵と感じるものはあったが、場合によっては大きく足を引っ張り得るそういった点が非常に些末に思われるほどの完成度だった。
品格が高い、と称すべきか。
読者の声を代弁する、という意味合いも含め、原田が非常にいい役割を果たしている。 |