またもややってしまいましたね。
真実だけを語り胸を張って生きてゆければそれは最高だが、もちろんそれを実行できる人は世の中にほぼ皆無なのだから、町田康氏の書く本は程度の差こそあれ、すべての人にとって共感できる読み物である。
我々が日常生活の中でしばしば感じるちょっとした自覚的不正、詭弁と欺瞞、利己主義に基づいた辻褄合わせ、あるいは卑屈根性などが、独自の筆致による一見浮世離れした不思議な世界の中に見事に散りばめられており、そして主人公が感じ、思い、動く内容は、表現こそライトであっても極めて重篤かつ、まさに読者のそれらと同質。
こんなはずはない、自分はこんなではない、私はあなたと違って客観的に自分というものを見ることができるんです、という種の凡人の想いが間抜けな主人公に正しく投影されているのである。
私たちが実際には曝け出すことができない自己内のいろいろなドロドロしたものを代弁してくれている、とも表現できる。
さらに、宗教や運命(使命)といったものに成り替わる「主」という新機軸が事態をより立体化させており、我々の脳もヒートアップを加速する。
鋤名彦名がおばはんになってからのクライマックスは圧巻である。
どう終わらせるんだろう、と訝しんでいたけれど、さすが、見事に締め括ったものだ。 |