まず大きな衝撃を受けるのは、年端もゆかぬ少女がたった独りで、帰らぬ母親を待ちながら湿地で逞しく生き抜くという、あまりにも凄絶過ぎるカイアの境遇。
フィクションとはいえ、これには心が締め付けられる。
ただ、同情を禁じ得ぬまま読み進めていくうち、物語そのものが持つ魅力に、いつの間にか引き込まれていることに気付く。
プロットはもちろんのこと、その組み立ても非常に高いレヴェルで為されていて、研究者としての実績があるとはいえ、著者にとってこれが小説デビュー作とはとても思えないほどの技術。
最後までだれることなく読了し、心地良い満足に包まれて本を閉じることができた。
幼少時より否応なく孤独に慣れることを強いられたカイアといえど、社会性と切り離せない人間という動物である以上、いわば真っ黒な真の孤独というものに染まりきることはできなかった…という命題が表向きだとすれば、その裏側には、まさしくカイアは湿地に生きる一個の野生動物としてその天寿を全うしたのだ…という真実もまた、確かに読者には示されている。
「なぜ傷つけられた側が、いまだに血を流している側が、許す責任まで負わされるのだろう?」 |