手練れの職人技、スキルで以て冷徹にロジカルに嵌めにいっている、という印象はあながち誤りではないと思うが、いずれにせよ小説としての出来は間違いない、もちろん。
ただトータルとして改めて振り返ってみると、ジャストアイディアで突っ走って最後は剛腕で無理くりまとめたな、とやはり感じる。
著者の力量についてはこれまでのキャリアで十二分に証明されているが、だからこそ、もっと細部に至るまで理屈を付けてきれいに形作ることもできたのでは…という感想も拭えないわけで。
具体的なところを1つ挙げると、登場人物たちが同時多発的に”前世”を思い出し始めたのはなぜなのか? という根元的とも言える疑問に対する回答がなかったのは致命的かも、と思ったり。
ラストで毬子が完全に忘れられた存在になっているのも、ちょっとすかされた気分。 |