京極夏彦の作品は大概、とっつきづらい。
最初の数ページは難解であったり、一見、平板であったり凡庸であったり、つまり、キャッチーでないことが多い。
この作品もそういった範疇に含まれる一つであると私は思うが、その最初の谷を越えてしまうと、あとはもう文字通り寝食を忘れさせて読者を飲み込んでいってしまうという続きが、必ずその後に待っている。
誰もが知っている怪談のスタンダードを基盤としながら、そこに尋常ならざる血肉を盛り付けていって、怪奇小説などといった枠を飛び越えたラヴ・ストーリーに昇華させてしまうすさまじい創造力。
ここのところ“純愛”という言葉が何かにつけ安く使われるようになったみたいだが、これこそが純愛小説と呼べるのではないだろうか。
アニメ「キャンディキャンディ」やテレビドラマ「赤い〜」シリーズを観ている時に感じていたのと似たじれったさを感じないか?
あの御行の又市も、この作中で初めて姿を現す。 京極作品はこうした登場人物の大胆な越境横断も見所の一つ。 |