海洋空間佳本


ウランバーナの森 ウランバーナの森」★★★★★
奥田英朗
講談社

2008.10.2 記
正直、中盤まではちょっと単調だなあ退屈かもなあ、などと思ったりしていたのだが、ケイコがアネモネ医院にやってくるあたりから物語は急展開、俄然引き込まれていった。

まず、“ジョン”という極めてポピュラーな実在の人物をモデルにしたところが上手い。
文庫版の解説で某氏も書いていたが、ファンならずとも感心してしまうようなディテールなども織り込まれ、非常に興味をそそる。

幼少時の複雑な家庭環境、順風満帆ではなかった生い立ち、そして家族を持ち成熟した後のカタルシス…、それぞれの要素は小説内の成分としてとりわけ際立ってユニーク、というわけではないが、文章と構成が巧みなので違和感なく感情移入できる。
言うなればポップスター版の「クリスマス・キャロル」。
特に自らも家庭や家族に関して何らかのトラウマを抱えている読者は共感しやすいのではないだろうか。

著者の奥田英朗氏は別のエッセイの中で、「自分は長編小説を書く時にも事前にプロットは立てずに最初から書き進んでいく」、という旨書かれているが、果たしてそれは本当だろうか? と訝しんでしまうような良作。





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