海洋空間佳本


U U」★★★★☆
皆川博子
文藝春秋

2018.6.23 記
17世紀初頭のオスマン帝国と、第一次世界大戦時のドイツ。
2つの舞台がつながるということは当たり前として、そのつながり方が、え、まさかそのまんまそう来たか、とこれまでの皆川博子作品をよく知る読者であればあるほど少し意外に感じるというか。
相変わらず作中の世界にひたすら没入させられる、精緻な時代考証をベースとした筆力はものすごいが(どんな歴史の教科書や解説書を読むよりも、当時の背景に想像を及ぼすことができ、理解することができる)、殊、構成の妙や物語を収束させる様式美、といった点に絞ると、これまた皆川ファンとしてはやや物足りないかも。
期待値が高過ぎる故ではあるが。

私たちは言うなれば、ただ生まれたから生きているに過ぎないわけだが、それでも「この世に生を享けた意義は何なんだろう? 自分が生きている意味は何なんだろう?」という根元的な問いを誰しも一度は抱くはず。
この書はあるいはそんな疑問に対して、とてもシンプルな形で答えを返している、と言うことができるかもしれない。
“モーゼも主イエスもムハンマドも、荒れ地の民を率いていた。荒れ地の民のために、掟をさだめねばならなかった。キリストの教えは、荒れ地とは暮らしが異なるヨーロッパにひろまり、矛盾が生じた。それを有理とするため神学が生まれ、単純なことが難解になった。イスラムでは、荒れ地の民を律するのに必要であったムハンマドの掟が一かけらの改変も許されず続いている。”
少し長いが、上記の引用に表れているような宗教の定義を含め、既に80代後半の老境に差し掛かった皆川氏だからこそ感じ取ったものを、三世紀に渡って生き続ける登場人物の口を借りて、この小説に著しているような気がする。

単行本の帯の惹句は意味不明というか、史上最低レヴェル。





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