近年、アディダスやナイキといったスポーツメーカー、そして研究機関等がマラソンの2時間切りを現実のものとするべく、"サブ2"をテーマに据えたプロジェクトへの取り組みを始めていると、しばしば見聞するようになった。
本書はそういった動きに焦点を当て、多角度から論じているものなのかな…、と思いつつページを開いたが、もちろんそういった箇所もあるものの、大半はマラソンのこれまでの歴史の振り返りであったり、主として取材しているジョフリー・ムタイを始めとするトップランナーたちの等身大の姿であったりといった内容。
肩を透かされた思いはちょっとだけあるが、でもケニアやエチオピアのエリートたちが生み出されていく過程の真実や、テレビで観ているだけでは決して分からないレース中および前後の駆け引きややり取り等の描写は非常に読み応えがある。
特に所属チームに付随する事情やペースメーカーを巡る交渉等で描かれる、金銭にまつわるあれこれはやはり生々しく、ここまで書いていいんだろうか、と少し思ったり。
東アフリカのトップ選手たちは、生まれながらにして遺伝子や環境に与えられた天賦の才のみに拠ってあれだけのポジションにいるんじゃないか、彼らがもっと緻密なトレーニングに取り組んで限界まで努力をすればさらにタイムは短縮できるんじゃないか、なんて私は無根拠にこれまで考えていたような気がするが、もちろんそんな馬鹿なことは実際にはなくて、彼らは既に高度な科学に基づいて組み上げられたトレーニングプランに則って厳しい練習メニューをこなし、また幼少期からのハングリーさも影響していると言える、いわゆる根性も十二分に備えており、精神的にも追い込むシヴィアな毎日を送っているのだ、ということがよく分かった。
ステージはどこであれ、生活の中にランニングの習慣を取り入れている人にとっては一読の価値があると思う。
果たして生きているうちにサブ2を見ることはできるのか?
構成面では、時系列も登場人物も行ったり来たりするところが多々あって若干読み難いと感じたので、もう少し工夫する余地があったのかもしれない。 |