芥川賞受賞作、と言われて読んでみると、なるほど、と深く頷くことができる小説であると感じた。
奇麗事を言うならば、後ろを振り返らずに前だけをしっかり見て歩んでいく、というのが人生訓としてもかっこいいのかもしれないが、しかしどうしたって人間は過去をまるきり切り離して生きていくことは決してできはしない。
かけがえのない現在、そして来るべき未来と向き合っていくためには、これまで堆積してきた自らの過去を背負い続ける以外に道はないのだ、という当たり前の事実が、修辞的な文章に彩られてここに示されている。
そしておそらくそこには、会社員としていろいろな物事を経験しながら生きてきた著者の一種の決意のようなものも込められているはず、と思った。
作品の本質とはおそらく関係ないが、「本の雑誌」で連載されている沢野ひとし氏のエッセイを思わず重ねてしまった。 |