傑出したオリジナルを超える続編はあまりないというのは、誰もが知る真理だが、今作はそのヴォリュームをほぼ倍に増やしつつ、クオリティでも前作を凌駕するという離れ業を見せつけてくれた。
まずとにかく、スケールがデカい。
400年余り先に異星の文明が地球を侵略しにやってくる…というところで前作は幕を閉じたが、それを受けて今作で明かされるのは、十数世代に渡るスパンを見据えて立案された面壁計画。
そして登場人物たちは冬眠=コールドスリープをバンバン繰り出して、いとも簡単に数百年の時を飛び越える。
その分厚さや翻訳物といった先入観から、ともすればとっつきにくい印象を持たれがちな作品かも知れないが、その内容は極めて平易で分かりやすく、SFに縁遠い読者でもすんなりと入り込めるだろう。
大森望氏が最終段階で日本語を整えているという効用も大きいはず。
ミステリー的な要素も上手く取り入れられ、ロジカルなエンターテインメントとして楽しめる。
三体危機の登場によって世界が一変する、という構造はコロナ禍の中にある今の現実とも妙に重なる。
いわばその危機に際しての思考実験ともいえる面壁計画も、現在我々が置かれている状況からすれば想像しやすかったり。
調子に乗って三体文明を舐め出したら、すかさず手痛い逆襲に遭った…というところまでそっくりではないか、というのはこじつけ過ぎか。
また、例えば章北海の精神状態などを読み解いていくと、やはり現代中国の作家から生み出された小説だな、と改めて思う。
壁に耳あり障子に目ありの智子の存在も、ひねくれた見方をすれば、常に政府当局の監視を意識せざるを得ない実生活から着想した…? とか。
智子といえば、結局は羅輯の計画がまんまと三体人を出し抜くわけだが、その前に描かれている羅輯と史明の会話を聞いてたら充分見破れたんでないの? と素朴な疑問を抱く(笑)。
最後は、"宇宙社会学の公理を将来否定することができたらいいね"的になかなかエモーショナルな締め方だが、よくよく考えたら、三体文明に発信するというパンドラの箱を開けた張本人である葉文潔がよーそんなこと言うな…! と読後にしみじみツッコまないでもない。
それにしても、いかにもこれで終わりという結末の描かれ方だが、ここからさらに続編があるとは、楽しみはもう少し残されている。 |