翻訳物であることが影響しているのか、あるいは原文のテイスト自体がそうなのか、壮大な物語である割には、あまりに淡々と進行していく感じがして、特にジョン・ソーントンと絆を深めていくくだりなんかはもっと紙幅を使って盛り上げに掛かればいいのに…などと思ってしまうが、執筆から120年近く経った今も決して色褪せぬどころか、輝きを増しているかのような創作世界の素晴らしさと凄みは充分過ぎる。
動物好きであれば、だからこそ読んでいるのがしんどくなる苦境の描写もあるし、リアルな犬の能力を遥かに超えるブッ飛び展開もあったりするが、やはり必読の名著だろう。
時折、シートンの「狼王ロボ」や高橋よしひろ氏の「銀牙」を思い出してしまった。
都市部で暮らす現代の人間ですら、自然の中に一定期間以上身を置いて、一個の動物として過ごせば感覚は鋭敏になり、世代を超越して保存されているであろう遠い記憶が揺り起こされる気配を知るのだから、バックに自ずと共感し、憧憬を抱くのは道理に違いない。 |