海洋空間佳本


三体 三体」★★★★★
劉慈欣
早川書房

2019.10.12 記
英訳されるや世界で数々の賞をかっさらい、日本国内でも出版直後から各所で高評価を得ているのを見聞きしているが、その大きな期待を裏切ることはない作品だった。
帯の惹句には褒め言葉の1つとしての「トンデモ本」なんて言葉も見えるが、まさに一歩間違えばただの"キワモノ"で終わったかもしれないギリギリのバランスを絶妙に保ちながら大風呂敷を広げ、不思議なリアリティを含ませることに成功している。
訳者の大森望氏も書いているが、J.P.ホーガンの「星を継ぐもの」を読んだ時に近いような感慨を持ったし、あるいは藤子・F・不二雄氏が描いたSF作品にも通じる世界観が見える。
また、冒頭は文革時代の凄惨な描写で幕を開けるが、作品全体を貫徹する厭世的なムードを含め(「この現代こそ、ほんとうの大絶滅時代だ」)、現代中国に生きる作家だからこそ著せたパッケージということもやはり言えるのだろう。
かといって決してシリアス一辺倒に沈み込んではいないし、随所で三体運動を彷彿させる"三すくみ"の状態をメタファーとして用いている、ちょっとした遊び心も面白い。
三部作ということで次作、次々作がどう展開していくのか、素直に楽しみだ。





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