海洋空間佳本


定年ゴジラ 定年ゴジラ」★★★★★
重松清
講談社

2005.8.4 記
よくも執筆当時30代という年齢でこれだけの日常的悲哀人生物語を書ききってしまったものだ、と脱帽する。

テレビドラマであれ映画であれ小説であれ、たとえ設定やストーリー展開が「ありえねーじゃん!」というスーパーリアルなものだったとしても、そこに“フィクションとしてのリアリティ”さえ存在していれば、人はその作品を違和感なくして楽しむことができる。
世に数ある傑作の中には、そうした種類のものもそれはそれはたくさんあることだろう。
しかしこの小説には“フィクションとしてのリアリティ”どころか、“リアルなリアリティ”が満ち満ちている。
現実にはとても起こりえないようなハプニングを仕立て上げてエンターテインメントとするのではなく、「あーわかるわかる」とか「こういうことあるよなあ」なんていう至極身近で日常的なエピソードの数々が、肩の力が抜けた絶妙な筆致と隙のない緻密な構成によって積み重ねられ、この上なく読み応えがあり、そして何とも言えない微かな寂寥にも似た読後感を与えてくれる。
文字通り一気に読めてしまう連作だ。





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