海洋空間佳本


谷崎潤一郎犯罪小説集 谷崎潤一郎犯罪小説集」★★★★☆
谷崎潤一郎
集英社

2024.3.28 記
谷崎潤一郎が実は推理小説、ミステリーらしきものをいくつもしたためており、しかもそれがどれも秀逸らしい、と知り手に取った一冊。
収録されている4篇ともキャリアの序盤、100年と少し前に書かれたもので、やたらと"気違い"などという言葉が登場し、マイノリティやハンディキャッパー、あるいは女性に対する差別が顕在的かつ余りに露骨だなあ…と、今となっては半ば呆れてしまうところはあるが、読んでいるうちに我知らず、その時代に生きているかのような錯覚に陥る。
それほどまでに、作品が持つ見えざる膂力は凄まじく、つまり、文章の美しさ、完成度が際立っている。
プロットの方も、江戸川乱歩が文壇に現れる前の当時では、まだ誰も日本語で読んだことがなかったであろう、革新的かつ実験的なミステリーの構築が試みられており、こんな一面もあったのか、と素直に感嘆する。
そこに、人間の醜い業とも言えるフェティシズムや、退廃的な印象すら醸し出す耽美主義といった要素が不可分に絡みついてくるところが、いかにも"らしい"ところであり、期待を外すことはない。





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