奥付を見ると1999年の第1刷、なぜか購入以来20年近くもちゃんと読むことのないままうち置かれていた本書を、今さらながらに通読した。
なぜこれほどの名著を積んでおいたのだろうか…。
広く知られる古典の妖怪物語を岡本綺堂氏が再編したものだが、素晴らしいアレンジと言う外ない。
およそ100年も前に書かれたとは思われぬほど読み易く、それでいて流麗としか形容のしようがない見事な文章が独特の心地よいリズムを保ちながら綴られており、さぞ壮大な絵巻を堪能したものだ…と読後に嘆息していると、なんとこれが僅か221ページに収められているとは! 恐ろしいまでの完成度。
それを知るのが本当に遅まき過ぎて、誠に恥ずかしい。
他の九尾の狐伝説には登場しない千枝太郎という人物を登場させ、玉藻との道ならぬ恋物語としての筋も一本通しているが、これがまた終いに至るまで美しい。
まさに足すところも引くところもない、完璧な作品だ。
玉藻の魂は旅を続けながら長い時を生き、今も世界のどこかで妖魔として存在しているのではないだろうか…、そんな夢想もしてしまう。 |