坂東眞砂子といえば、出身地の四国を始めとした土着的なイメージ、そして濃いホラー色を発散する作品群のタイトルたちが先に頭に浮かぶ人も多いと思うが、この作品はそれらとはまるで趣を異にする。
中世ヨーロッパという、現代よりもはるかに超自然的価値観が強く世俗に作用し、思想的多様性や精神活動の表現が制限され、階級や身分が社会のありようの多くを定めていた、つまり、いろいろな面においてより束縛の強かった時空を舞台としながら、それらの、あるコミュニティに当時属していた人たちにとっては絶対的摂理にも等しかったであろう強固な世界観が揺らぎ、そしてさながら音を立てて崩れゆく様を実に壮大に、悠遠に描いている。 万物を呑み込まんとする大きな流れ、スケール。 |