やはり私はこの人の創り出す世界が大好物のようだ。
2段組みで500ページを大きく超える長さが、まだ足りない、もっと読み続けていたい、と感じられる、皆川博子氏らしい名著だ。
元は文字通り1つの存在だった、ゲオルクとユリアン。
そしてユリアンと魂を通わせ、不可分なパートナーとなるツヴェンゲル。
一方のゲオルクは挫折を味わいながらも、陽のあたる舞台で脚光を浴びていく…。
ウィーン、プラハ、そして欧州を飛び出してニューヨーク、ロサンジェルス、さらには上海にまで足を伸ばしながら、圧倒的なスケールで描かれていく物語。
特に、魔都と言われた20世紀前半の上海の様子は、糜爛しきってドロリとした雰囲気を纏いつつ、とても生々しく伝わってくる。
これだけの分かりやすさ、読みやすさを備えつつ、重みと厚みを同時に包含する大作を綴る技量たるや、まさしく感嘆に値する。
彼女の新作を読むたびに感じるが、老いてますます冴え渡る皆川氏の妖力は底なしか。 |