まーとにかく長い。
私は長い話自体は決して嫌いではなく、むしろ好きな方だが、この作品に関してはちょっと贅肉が多いというか、過不足ないレヴェルに落とし込むならば、もう少しシェイプできたんじゃないかな、と思う。
しかし中身としては、充分に面白かった。
さすがにこれだけの紙幅に及ぶだけあって、中には様々な要素が詰め込まれている。
基本は、人間としての意識を保持したままの吸血鬼(屍鬼)と人との戦いの物語ではあるが、その縦筋に沿って投影されている思想や価値観や判断基準の数々は大いに読み応えがあり、骨太の文学と言ってもいい。
物語の後半、作中作に込められた室井静信の逡巡に至っては、町田康氏の作品を彷彿させるほど。
あるいは、篠田節子氏や貫井徳郎氏と通じるものも感じさせる。
それでありながら、アクション部分の魅力も相当。
これから芯をとっていくんじゃないか、鍵を握ることになるんじゃないか、と読者に思わせるキャラクターたちが悉く屈し、舞台から消えていく展開には息を呑まされるし、不幸にも人心を失うことができない屍鬼と肉親との交流は情感たっぷりに描写され、そしてクライマックスの“狩り”のシーンは、妄念に憑かれた群衆が持つリアルな狂気の提示を含め、まさに圧巻の一語に尽きる。
日光に弱い、十字架や神仏を象るシンボルを忌避するなど、ともすればコミカルになってしまいがちなほど古典的な特徴を屍鬼に付与するといった賭けを冒しながらも、見事にまとめきっているのは、さすがに小野不由美氏の力量。
生きるということは他を殺すこと。
そんな、日常の中ではついつい忘れがちな前提を改めて思い出させてくれる作品。 |