精神病理をメインテーマとして扱い、そこにティーンエイジャーの危うさや大人の恋愛エピソードを絡め、さらに後半の勝負所では「ここからサイコホラーが始まるのか…?」、と一瞬怯えさせてもくれた。
1冊の中に込められたトピックスは多いが、どれも上手く消化されており、最初から最後まで非常に興味深く読むことができた。
ラストも含め、全体的には物哀しいストーリーなのだが、にも拘らずどこかスッキリした気分、前向きで澄んだ気持ちにさせてくれる作品だ。
帚木蓬生氏や久坂部羊氏、それに手塚治虫氏などといった医師資格を持つ作家がその専門知識を援用して生み出す作品は無論のこと、そうでなくとも医療の世界を舞台にし、読者の生命倫理観をダイレクトに揺さぶる物語は実に読み応えがある。
誰もがいわゆるTPOに合わせた自分を演じ、常に何らかの衣を心に着せているとも言える現代社会において、“本当の私”とは一体何なのか? 一体どこにあるのだろうか? そんな普遍的な命題についても考えさせられる。 |