海洋空間佳本


鯖 」★★★★★
赤松利市
徳間書店

2023.6.8 記
誰しも心当たりがある、人間の心の裡に潜む汚さや黒さや醜さを抽出して娯楽性を兼ね備えた文学に昇華させている、という点において、作風は違えど西村賢太氏の著作にも通じるものを感じた。
なんだかんだありながらも結局は乗り切って収まるんかなもしかしたら…と思いきや、中盤以降の新一の壊れっぷりがこちらの予測を遥かに上回るペースで加速及び驀進し、一気に奈落の底へ落ちて破滅に至るのかやっぱり。
逆説的ながら、ある意味で大団円とも言える幕切れに違和感はないが、終盤の畳みかけるような展開は急ぎ過ぎの感が否めず、もっと紙幅を費やして丁寧に描いても良かったのでは…等と僭越ながら思ったり。
これが長編デビュー作とのことだが、著者のバックボーンあってこその物語か…と得心する、本来小説を味わうのにその情報は不要のはずとは分かりつつ。

筋半ばではあるが、5人の中国娘たちが歌い寅吉が滂沱と涙するシーンは、崇高さと清浄さにおいてピークを極めた1つのクライマックスだ。





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