確かに辻仁成氏は、紆余曲折、宿命と運命、そして心の行き違いに翻弄される、ちょっと哀しくもあるけれど限りなくピュアな恋愛小説を書くことにかけては超一流の作家だと思うが、それにしたって、もう一人の小説家と歩調を合わせて一つのラヴ・ストーリーを異なった視点から描く、という非常に難しいスタイルを採ったこのような作品において、よくもここまでのクオリティで言葉を並べ、物語を紡いだものだと、素直に驚嘆せざるをえない。
誰もが感じうるんだけど、なかなかそれを声に出して、表情に浮かべてはそうそう生きてはいけないような複雑かつ純粋な恋心の揺れやざわめきを、読んでいるこちらが恥ずかしさを感じるのを通り越してスカッと気持ちよくなるほど赤裸々に彼は綴っている。
江國香織氏のファンには申し訳ないけれども、彼女の同名小説よりこちらの方が数段上だと、私は思います。 |