まず根底を貫くのは、著者・原田久仁信氏による梶原一騎賛歌であるという確たる背骨。
そこにはバイアスがかかった美化もあろうが、コンプライアンスなどという言葉がこの国になかった当時ですらぎりぎり、いや完全にアウトではないか…という生き様を演じながら、誰もが知っている名作の数々をこの世に送り出したことは紛れもない事実であり、梶原一騎氏の傑出した才能の一端が本書を通じて確かに感じられる。
そして、作画担当者までもが梶原マジックの術中に半ば意図的にはまり、闇の中を手探りで進むかの如くであったことを知り、驚くやら納得するやら。
次に去来するのは、まさしくノスタルジーに他ならない。
それも単に懐かしいなどという思いではなく、「ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実」を読んだ時と同じ種類の静かな興奮が胸の内に湧いてきた。
あるいは、雑誌「ムー」やムーブックスシリーズを前のめりになって夢中で読んでいた時のような気持ち。
つまり、プロレスと水曜スペシャルとムーが人の心を魅了する要素は同質であり、それらを愛する人たちの層は重なっていると言って過言ではない。
「プロレススーパースター列伝」連載当時から既に40年余り、梶原一騎氏はその数年後に50歳の若さで逝去し、原田久仁信氏も本書を上梓してほどなく、この世を去った。
さらに、ジャイアント馬場、アントニオ猪木を始め、ブルーザー・ブロディ、ハルク・ホーガン、アンドレ・ザ・ジャイアント…「列伝」に登場するレスラーたちも多くが鬼籍に入り、意外なことに梶原一騎氏が"最強"と考えていたというジャンボ鶴田も若くして亡くなっている。
改めて、昭和という時代が遠ざかっていることを実感する。
「アシスタントも困惑していたが、世の中には考えたらいけないこともある。」
「『列伝』は時代のなかで生かされた奇跡の作品だった。」 |