海洋空間佳本


プリンセス・トヨトミ プリンセス・トヨトミ」★★★★☆
万城目学
文藝春秋

2009.8.12 記
この万城目学氏の作品群、あるいは森見登美彦氏のものについても言えることだと思うが、その舞台となっている街に馴染みがあるかないかが、割と大きなポイントになるような気がする、作品を楽しめるかどうかという点において。
たぶんこの小説に関してもそれは当てはまって、大阪市内に今も勤務し、かつて森ノ宮に2年間住んだこともある私自身にとって、作品の世界に入り込む上でその経歴は大きな一助となったと思う。

設定そのものは毎度のことながらかなりのブッ飛び度合を見せているので、一見とっつきにくく、また始終苦手とする向きも少なからずあろうものだが、そこに大阪城にまつわる興味深い史実や、建築に関する蘊蓄などが巧みに混ぜ込まれているので、なんだか半分騙されているような心持ちのまま、仕舞いまで読んでしまう。
雑誌の連載小説ということもあってか、本当にともすればゴロゴロと転げてしまいそうな危ういバランスの作品だと感じるが、そこはちゃんとプロフェッショナルの仕事として纏め上げるのはさすがの技術。
松平の家族、出自にまつわる終盤のシーンでは、まさかの涙腺刺激ネタまで絡めてくるとは恐れ入った。
ウェイトは少ないながらも、ミステリー的な要素もちゃんと最後まで引っ張りを見せている。





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